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息をするように本を読む68 〜佐藤さとる「おばあさんの飛行機」〜

 佐藤さとるさんの作品。
「誰も知らない小さな国」やコロボックルシリーズが有名だろうか。
 読んだことがなくても、あの独特の可愛らしい村上勉さんの表紙や挿絵を目に留めたことがある方々はたくさんおられるのでは、と思う。
 
 先日、新聞の記事で佐藤さとるさんの作品のひとつ「おばあさんの飛行機」が紹介されていて、とても懐かしくなった。

 私が最初に読んだ佐藤さんの作品はこの「おばあさんの飛行機」だった。

 小学生の頃、某国営放送の教育テレビで「おはなしのくに」という番組が放送されていた(今もあるのだろうか)。
 古今東西のお話をいろんな趣向で読み聞かせてくれる。人形劇のこともあり、影絵や朗読劇のこともあった。
 
 その番組で、あるとき「おばあさんの飛行機」が取り上げられていた。それがとても面白くて、そのあと、学校の図書館で借りて読んだ。
 
 それから数十年が過ぎ、娘らが幼い頃に入っていた児童書の頒布会でこの本が送られてきたときはとても嬉しかった。
 娘たちもこの本が大好きで、寝る前に何度も読まされたものだ。


 ある村に住む、とても元気で可愛らしいおばあさんが主人公。
 ご主人はもう亡くなられていて、一人で暮らしている。
 ちょっと離れた街に結婚している娘さんがいて、孫の男の子が一人。
 一人暮らしを心配する娘さんは、こっちの街に来て一緒に住もうと言うが、おばあさんは住み慣れた場所を離れることに決心がつかない。
 
 おばあさんは編み物がとても得意で、それを知っている近所の人たちはおばあさんにセーターを編んでくれるように頼みにくる。   
 おばあさんの編んだセーターはとても素敵でふっくら温かく、それを着ているとその冬は風邪をひかないという噂まであった。
 秋の始めから冬になる頃、おばあさんは頼まれたセーターを編むのに忙しく過ごし、一人で暮らしていても全然寂しいことはなかった。
 編み物をしているおばあさんの手は流れるようにサクサクと動き、その手元からは魔法のようにきれいな模様が現れる。
 まるでおばあさんの頭の中に浮かんだ模様がおばあさんの手から滑り出てくるように。

 冬が過ぎて暖かくなってくると、さすがに編み物の依頼は減る。
 でも、おばあさんはとにかく編み物が大好きなので、今度は自分のために編み物をする。
 古い肩掛けをほどいて、それでまた新しい物を編むのだ。

 ある穏やかな春の日、おばあさんは古い黒い肩掛けを解いてくたびれた毛糸を湯気に当ててふっくらさせ、編み直す準備をした。

 何か新しい模様はないかしら。
 今まで編んだことのない、何か素敵な模様。
 おばあさんがあれこれと考えていると、開け放った窓からおそらく羽化したばかりの黒い蝶々がひらひらと入ってきた。
 そして、考えに沈んでいるおばあさんの手にちょんと止まったのだ。
 まだ飛ぶのが上手くないのか、ゆらゆらしている蝶々を心配そうに眺めていたおばあさんは、ふと蝶々の羽の模様に目をとめた。
 蝶々の羽は艶やかな黒一色だったが、おばあさんがふだん新聞を読むのに使っている虫眼鏡でよく見ると、きれいな地模様が浮かんでいる。
 ひと休みした蝶々がまた飛んでいってしまうと、おばあさんさんは編み棒を取り上げ、張り切ってさっき見た蝶々の羽の模様を編み物で再現しようとした。
 いつもなら、何回か試作すれば直ぐに模様が出来上がるのに、今回の模様はとても難しい。
 おばあさんは久しぶりに時間が経つのも忘れるほど編み物に夢中になった。まるで編み物を習い始めた子どもの頃のように。

 何回も何回も編んでは解き編んでは解きしているうちに、やっとそれらしいものが出来てくる。おばあさんは大喜びで、どんどん編み続けた。
 ところが、この編み物、実はとんでもない代物であることがわかる。
 どんなものかはここでは書かないが、まあ、蝶々の羽の模様、ということから大方の予想はつくと思う。
 そして、おばあさんはこの編み物を使ってまたとんでもないものを作ってしまった。
 それを使っておばあさんは、途方もなく素敵な冒険に飛び出すのだ。
 
 この辺りの描写がとても面白く、ある意味リアル(?)で、ワクワクドキドキする。子どもの頃、私はここが大好きで何度も読んだ。
 私もこんな冒険、やってみたい、と思ったものだ。

 冒険は子どもや若者たちの専売特許ではない。
 大人にだって少々お歳を召した女性にだって、冒険はできる。
 子どものようにワクワクしたりドキドキしたり出来る心さえあれば。

 
 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 私が子どもの頃、編み物はごく普通に女性のメジャーな趣味?特技?だった。
 母親やおばあちゃんの手編みのセーターやマフラーを着ている友達や同級生が普通にいたし、手芸屋さんに行くと、幾つも見本のセーターが展示されていて、週に何回か編み物教室が開催されていた。
 学生の頃、彼氏の誕生日に間に合うようにやたら凝った編み込みセーターを編んでいて、寝不足で講義に遅刻して単位を落としそうになった友人もいたっけ。
 
 毛糸と針2本のみから生み出される、模様たちは本当に魔法のように美しかった。
 着てくれる人の顔を思い浮かべつつ、編む。
 女性たちにとって、あの時間はとても大切なものだったに違いない。
 
 

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