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『クリスとみちる』 11話: 対話

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「みちるくんは今日が初めてですが、

 ここは気づきのトレーニングジムです。


 ジムといっても、

 言われたことをそのままするという感じではないんです。


 いくつかの招待状が届きます。


 でも、みちるくんはそれを全部受け取らなくてもいいんです。


 全部捨ててもいいし、好きなのだけ開けてもいい。

 自分で選ぶことができます」


 僕はじっと聞いていた。


「ここまでいいですか?」


 うん、と小さくうなずいた。


「このままこうしているのもいいんですけれど」


 クリスは僕をいたずらっぽく覗き込んだ。


「いま考えていることや感じていることを

 口に出すことをしても、いいんです」と言った。


「たとえばさっき」


 クリスはみんなに向き直って続けた。


「いまどんな感じがしますか、と聞いたとき、

 みちるくんはつらい、と言いました。


 そんな風に、自分がいま何を感じているのかに気づいたら、

 口に出してみることもできます」


 そうっと見上げた僕の目を見ながらクリスは言った。


「いま、何に気づいていますか?」


 僕がいま気づいていること?


「・・・クリスの顔」


 瞬間、なんてバカなこと言ってしまったんだろうとものすごく後悔した。

 でもクリスは、全然違った。


 ものすごくうれしそうに

「みちるくんはクリスの顔に気づいています」と、言った。


 なんて変な会話なんだ。


 こんなこと、誰とも話さない。


 でも初めていまクリスと会話したのかもって思った。


 そして、またすぐにみんなの視線を感じてうつむいた。

 やっぱりつらいなここ・・・


 うつむいている僕を見ていたクリスがそうっと言った。


「・・・いまは何に気づいていますか?」


「・・・いまは・・・・」


 ちょっと迷って、でも言った。


「つらいです」


 するとクリスは言った。


続く

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