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『クリスとみちる』 10話:誤算

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 それはまったくおもいがけないことだった。

 

 ・・・失敗した。

 

 いまそれしか浮かばない。

 

 

 みんながこっちを見ている。それがこんなにつらいなんて。

 

 さっきまでいた席とこんなに違うなんて。

 

 みんなの視線が突き刺さるようだ。

 


 反則だよこれ。

 


 なんで手を挙げたんだろう・・・僕は全力で後悔した。

 でももう遅い。

 

 正座している自分の膝をじっと見ながら、固まるしかなかった。

 

 気づくとクリスが僕のすぐ隣に座り直していた。


「みちるくん、いまどんな感じがしますか」


 クリスの横で、ちえこさんが言った。


「・・・つらいです」


 僕は正直に答えた。それしか言葉は出なかった。


 ちえこさんが言うのを聞いてクリスはやさしく言った。


「もし、戻りたかったら戻ることもできますよ」

 さっきまでいた自分の席を僕はちらっと見た。


 お母さんがこっちを見ているのがわかった。


 本当は戻りたくてたまらなかったけど、ここで戻ったら負けるような気がした。

 だから、ものすごく無理をして、首を横に振った。


 そんな僕をクリスはじっと見ていた。


「わかりました。でも、いつでも戻っていいということを知っておいてくださいね」


 僕はうなずいた。自分の膝を見つめながら。


「さて」


 クリスはニッと笑った。


つづく

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