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【赤の少女と白い虎】 8夜. 悲しみの血

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城の門の前で、その男は屈強な兵士達に取り囲まれていた。


「名乗られよ」


馬の上から兵隊長の声が静かに深く響いた。


血まみれの男は、何十もの剣を向けられながら、ただ立ちつくすのみだった。


兵隊長の脳裏に、鏡池の悪夢が一瞬甦った。


「何もいわぬなら、これまでだ」


いくつもの剣がその男を貫こうとした時だった。


「待たれよ」


闇夜の中に、しわがれた大きな声が響いた。


小さな老婆が、ゆっくりと兵士達の輪の中へ音もなく入ってくるのが見えた。


「こんなところで血を流されるおつもりか」


兵隊長の目に、遠くから怯えた顔で息をひそめる人々の姿が映った。

「なんだお前は」


「私は名もなき、ただの老いぼれ。

 それよりもご自分のなさろうとしていることを、

 よくご覧になりなされ。

 すでに悲しみの血に染まっているものを、

 さらに血に染めるおつもりか」


兵隊長は、薄汚れたローブをまとった老婆を見下ろした。

「お前に何がわかるというのだ」

「わかるとも」

 老婆は言った。


「目をみればわかる。

 あなたは本当にその者が斬るに値する人間だとでもいうのか」


兵隊長は何か言おうとして、一瞬口をつぐんだ。

そして一言、「火をもて」と命じた。


一人の兵士がたいまつをもち、その男に近づくと、


炎の下に

あふれんばかりの涙が

血に染まった頬をつたっているのが

誰の目にもはっきりと映った。


兵隊長は馬を降りた。


「そなた、名は?」


その瞬間、男はその場に崩れ落ちた。


すぐさま兵隊長の命でかつがれ、

男は兵士たちとともに城の中へと消えていった。


人々のざわめきの中で、老婆が去ろうとした時だった。


「お早いお着きでしたね」


 後ろから声をかける男がいた。


 それはグレーのローブに身を包んだ、宇宙の風読み師だった。


〜つづく

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