母というひと-007

祖母から「遊びに行こうね」と誘われた母は
疑いもなく付いて行く。
矢田家へ着き
遠出で疲れた娘がウトウトと眠ってしまったところで
祖母は黙って去ったらしい。
置き去りだ。

初めて連れて行かれた家で、目が覚めると親がいなくなっている。
その恐怖はどれほどだったろう?

母は大泣きしながら家中を探して回る。
でもどこにも母親はいない。
それどころか、周りは見知らぬ他人ばかり。
もともと赤ちゃんの頃から人見知りだったところに加えて
この時の強烈な心の傷が
のちの対人恐怖症のもとになったのかもしれない。
一生、人と心を通じ合わせるような付き合い方ができないまま過ごした。


あまりにもひどい泣き方には矢田家でも往生したらしいが
「いずれ落ち着くだろう」と楽観視していた。
しかしそのうちご飯もまともに食べなくなり
「このままでは死ぬ」という状況になって、やっと祖母に連絡が入った。
祖母が慌てて矢田家へ行った時には、母は骨と皮になっていたそうだ。

「一度連れ帰って体力をつけ、それからまた矢田家へ戻す」と約束して
祖母は娘を連れて自宅へ帰った。
しかしその後、戦争が激しさを増し
矢田家も疎開して行方が分からなくなる。

娘を矢田家に戻すことができなくなると同時に
戸籍も、元には戻せなくなってしまった。

#人生  
#実話
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#波乱万丈
#エッセイに近いかな

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