麒麟の瞳はオパールでできていて、私はその瞳であの人を見つめる
麒麟の瞳はオパールでできていて、私はその瞳であの人を見つめる
私には大切な宝物がある。
とても古い麒麟のモチーフのブローチだ。
ママが私にくれた。
瞳はオパールでできていて、
わたしの宝石箱にしまってある。
オパールはとても小さいけれど、
その複雑に絡みあう偏光線はいつ見てもきれいで、
さながら万華鏡のように光輝いて見えた。
取り分け、夜誰もいない部屋でこっそりと宝石箱からだして、
月明かりにかざせば、
それは深い緑色と青が混ざった私の大好きな色になって、
わたしはそっとママを思い出すことができた。
ママは私が5歳の時に突然いなくなった。
好きな男の人ができたから。と言って、
私と弟を残して出て行ってしまった。
私には麒麟モチーフのブローチを、
弟には真珠のイヤリングを残して、
ママは私たちの目の前からいなくなった。
わたしは自分が死ぬときは
このオパールの瞳を持つ麒麟を炎の中に入れて焼け焦がしてしまうつもりだった。
ママのことを許したことは一度もない。
ずっとずっと思い出しては
なぜいなくなってしまったの?と
永遠に答えが返ってこない問いを繰り返すばかりだった。
今、私はこのブローチをまだ幼い自分の娘に手渡そうとしている。
あの人と、ママと同じことをしようとするなんて、
思ってもみなかった。
まさか、私が、子供を捨てて?
何度も何度もママに向かって言いたかったことを、
今、私がしようとしている。
「ごめんね。これ、ママだと思って大切にしてね。」
そういって私は自分の幼い娘の手のひらに
瞳がオパールでできたあの麒麟のブローチを
そっと握らせるのだった。
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