ことのは
ことのは
わたしはことばで傷つきやすい。
自分の真ん中がないから、
他の人の気持ちがすべて自分の感情になる。
この振れ幅がどれだけ小さかったら
この振動数がどれだけ数少なかったらいいだろうと思った。
あなたに会うまでは。
たったひとことのことのはで
それまでのわたしがいなくなってしまうことなんて
今まで数えきれないくらいあって、
そんなことを気にしていたら前になんか進めないのに、
わたしの気持ちは大抵そんなちっぽけなどうでもいいことにいつも気を取られていた。
わたしは選ぶことができる。
そんな簡単なことすらすっかり忘れてしまっていて、
いつも同じところをぐるぐる回っては、
周りのひとたちに、陰でこそこそ笑われていたと思う。
とりまく人たちが変わっても、やっていることはいつも同じだったら、
そうやって笑われていることも、きっと変わっていなかったはずだ。
わたしは無意識にその状態を選んでいた。
きれいに塗られたネイルも
ピアノを弾く時間も
本当はちゃんと持てたはずなのに、
忘れたふりをしていた。
自分の言葉に重みがあることも客観的に感じていたけれど、
でも実際のところ、私の存在は誰も知らなくて、
私はいてもいなくてもどっちでもいいはずなのに、
自分は特別と思い込むことで、わたしのことのはに意味を持たせたかった。
そんな作られたものなど、何の意味もないのにね。
それなのに、あなたが現れた。
わたしの空っぽの真ん中はあなたで埋め尽くされていくのと同時に、
わたし自身でも満たされていった。
それはいままで経験したことのない感覚で、
いつも誰かの評価にびくびくおびえていた私は、
はじめて誰にもおびえることなく安心することができた。
誰かに抱きしめられるということが
こんなに美しく残酷なものだとは
私は知らなかった。
ことのははわたしを生かす。
そしてことのははわたしを苦しめる。
永遠に紡がれることのなかった日々に
わたしは目を向けなければならなくなった。
そう、たくさんの喜びで満ちている私の毎日に。
あなたがいる。
ただそれだけでこんなに日常は明るくなる。
あなたがいる。
それだけでその瞬間にほほえみが生まれる。
なぜこんなにも美しく残酷な日々を
あなたは私にしむけるのだろう。
とおくで誰かが大きな声で叫ぶ。
君は世界で一番幸せものだよ。と。
耳元であなたがそっとささやく。
君を離すつもりは永遠にないのだと。
ちいさくうずくまるわたしは選ぶことができる。
ことのはに苦しめられることなく、
ただあなたに愛され抱きしめられていればいいということを。
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