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夜中の鼓動

うまくいかなかった日の真夜中、まぁつまりほとんど毎晩、冷たいアイスティーを淹れて、その中に牛乳も入れてベランダに出る。

そうして信号を眺めるのが好きになったのはいつからだろう。

誰もいない街はジオラマみたいで、無人の道でせっせと色を変える信号機はなんとなく心臓に似ている。

味のない毎日をひたすら噛み続けて、自分というものが腐っていくのがわかる。

でも時間の脈を感じながら、直線に支配された目下の街を睫毛を伏せて見下ろすと、乾いて固くなったパンみたいな気持ちも、ゆらりゆらりと解けていくのだった。

どくん、どくんと信号がまた変わる。小さい頃、泣いた自分の背中をさすってくれた生ぬるい手と、その人の鼓動にも似ている。あの人も同じ夜に身を浸している。この街のどこかにいる。終わりのないリズムを刻む3色を見てそんなことをじんわりと思い出す。

世界もまだまだ捨てたもんじゃないかもだ。

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