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オヤジギャグには愛がある

皆様は「オヤジギャグ」ってどう思いますか?

私、大好きなんです、オヤジギャグ。

だからでしょうか?
若い頃の私は、同世代よりオヤジ世代に好かれました(笑)

オヤジギャグ、いわゆる駄洒落(ダジャレ)は、確かに失笑を買うことも多いけれど、私はなぜか「愛」を感じるのです。温かくて優しい愛を。

うら若き20代の頃、当時勤めていた会社の同じ部署にオヤジギャグ好きなオヤジ社員がいました。私がその部署にいたのは半年ほどでしたが、思い出深く、忘れられない時間でした。なぜならこの半年間、私はもう二度と味わうことのない「お気楽極楽OL」を満喫できたからです。

前の部署でいろいろあって退職希望の旨を上司に申し入れたところ、翌週に部署異動の通知を受け取りました。
自分の部署で部下に辞められては査定に響くのでしょう。辞めるなら異動先で辞めてくれと。(会社って怖いですね 笑)

そんな理由で「とりあえず異動」した私は、今週一杯か、今月一杯かと、退職する日のことばかり考えていました。
与えられた仕事は部署内の庶務業務。といっても、元々その仕事は週3日勤務の派遣さんが担当していて十分間に合っているところに私が追加されたので、仕事はほとんどありません。まあ、そのうち辞めるとわかっている人間に大事な仕事は任せられませんからね。

仕事は社員たちから渡される領収書の経費処理と電話番くらい。私は定時出社の定時退社で、のんびり無気力に過ごしていました。

そんな中、私の隣の席のオヤジ社員(推定年齢55歳)が、毎朝定時ギリギリ(8時59分打刻)で出社する私にこう言いました。

「長谷さん、会社ってのはね、最低でも朝は10分前に来て仕事の準備をしたり、ちょっと机を拭いたりするもんなんだよ、わかる?」
私は即答しました。
「ワカリマセーン」
オヤジ社員は苦笑して続けます。
「そのほうがさ、気持ちが落ち着くじゃない。慌ててバタバタ来て、汗かきながらじゃあ、朝から疲れちゃうでしょ?」
私は答えます。
「んー、でも早く来たって別にイイコトないもん」
するとオヤジ社員はニコっと笑って言いました。
「じゃあ、明日10分前に出社したら、俺が旨いコーヒーを淹れてやるよ」
「ホント?」
「ホントホント。じゃあ、明日は旨いコーヒー用意しとくから」
「わーい♪」

まるでTVドラマに出てくるようなオバカOL(笑)


翌日、約束通り10分前に出社すると、オヤジ社員は満面の笑みで私を迎えてくれました。
「エライなぁ~! よく来たよく来た! 今、コーヒー淹れてるから」
「わーい」

それから私はそのオヤジ社員と仲良くなり、日々彼のオヤジギャグを聞くことになったのです。

「この書類、総務から催促きたんですけど、もう提出してますよね?」
「どれどれ? ああ、これ出したよ。まったく総務はソームネェなぁ」

「ちょっと、トイレに行ってきます」
「はい、いっトイレ」

「クライアントさん、不在だったんですか?」
「電話しても誰もデンワ」

ある日、私に向かって両手でVサインをするオヤジ社員。
「何ですか? それ意味わからない」
「だろ? だからこれなんだよ」
「ええ?」
「ブイが2つで、2ブイ、2ブイ!」
「ニブイ・・・・・・って、あ、ヤダーもう!」


いつ辞めようかと考えていた私でしたが、オヤジギャグ好きなオヤジ社員のお陰で、私は半年間楽しく過ごすことができました。その後、また別の部署に異動になると、あのオバカOL生活とは真逆の超多忙でハードな仕事が待っていました。あっという間に役職に就き、気づけば数百人の部下を率いる立場になっていました。


それから数年後、久しぶりにオヤジ社員と顔を合わせました。相変わらずの笑顔で、嬉しそうに2Vサインをしています。私も両手でVサインを返しました。
「バリバリやってるみたいだねぇ~! 体調に気を付けてよ、隊長!」
そう言って私に敬礼するオヤジ社員。
「俺ねぇ、もうすぐ定年なんだよ。最後に隊長の下で働きたかったなぁ」
「え? じゃあ私、人事にお願いしてみましょうか?」
「いやいや。人事に言ったらジンジンしちゃうからダメ」
「きゃはは! 相変わらず~」

しばらくして、オヤジ社員が退職したと風の噂で聞きました。あの、オヤジギャグまみれの半年間を思い出し、心の中で感謝しました。


オヤジギャグには、愛がある。
私はやっぱり、そう思うのです。

FIN

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