Weekly Quest <金利と景気>
(2023年9月4日号)
毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。
早いもので9月になってしまいましたが、あいかわらず残暑が厳しいですね。
先週は物流から見たアメリカの景気を考えてみましたが、今週は金利から見たアメリカの景気を確認してみたいと思います。金利と言っても色々な種類がありますが、特に重要とされる実質金利を中心に見ていきたいと思います。
○実質金利とは
金利は中央銀行が決める政策金利が有名ですが、他にも名目金利と実質金利がありそれらを見ていきます。最近では R*(アールスター)と言われる自然金利というものが話題になっていますが、今回は触れないで実質金利を中心に考えたいと思います。実質金利とは名目金利からインフレ率を引いた金利です。
実質金利=名目金利 ー インフレ率
名目金利とは一般的な金利のことです。これは FED が FOMC のたびに見直しを検討する政策金利のことで貸出金利の元になるものです。現在の政策金利上限は5.5%ですから、ここから現在の CPI(インフレ率)が3.3%として考えると、実質金利は2.2%ということになります。
これはあくまで現在の購買力を考える上でのもので現実的な物価変動を考慮した購買力を示すものになります。さらに将来の物価変動予測を考慮したインフレ率、期待インフレ率を使って実質金利を考える方法があります。
実質金利=名目金利 ー 期待インフレ率
この期待インフレ率はブレーク・イーブン・インフレ率というもので BEI と言われており、これを元に実質金利の状況を見ることが多いです。
この BEI は国債利回りから物価連動債利回りを引いたものが使われます。物価連動債とはインフレによって元本が調整される債券のことです。これを元に実質金利の影響を考えてみましょう。
・名目金利5%、期待インフレ率が0%の場合は実質金利は5%
100万円を一年間預けると5万円の利息がついて105万になります。期待インフレ率が0%であれば実質金利は5%となり例えば、配当利回りが5%以下の株式だと株価のリスクを考えると株式より預金においた方が安全と考えられます。
・名目金利5%、期待インフレ率5%の場合は実質金利は0%
100万円を一年間預けると5万円の利息がついて105万になります。期待インフレ率が5%であれば実質金利は0%となり現在も1年後も価値は変わりません。値下がりリスクはありますが配当銘柄に投資すれば配当の分が預金よりは有利ということになります。
・名目金利5%、期待インフレ率が6%の場合は実質金利はマイナス1%
100万円を一年間預けると5万円の利息がつきますが、1年後の実際の価値は99万円になっていることになりますから、お金を借りてでも投資や消費に回した方が良いということになります。
以上ざっくりと説明しましたが、実質金利が上昇するのは株や消費にとっては良い話ではないということがわかると思います。そこで現在のアメリカの実質金利の推移を見てみます。
これを見ると明らかですね。過去に実質金利が上昇した場面ではいずれも大幅な株価の下落が起きています。
実質金利の推移だけをみていると今回、既に株価が大幅な調整時期になっていないといけないわけですが、現実的にはそうなってはいません。さらに景気も悪化していないと言われています。そこで現在のアメリカで起きていることをまとめてみます。
・名目金利は上昇しているが期待インフレ率は思ったほど下がらず実質金利が上昇
・賃金は上昇していて失業率が低下、雇用は全般的にまだ堅調
・消費は依然堅調
・生産活動は低下し製造業の景気は悪化、サービス業の企業収益も鈍化
現在の状況は名目金利は上昇しているが期待インフレ率は思ったほど下落せずそれにつれて実質金利も上昇、生産活動は金利負担から徐々に低下しており製造業の景気は明らかに悪化、サービス業も売上高成長率が鈍化しているが、景気が悪化しているとまではいかない水準、さらに、労働力不足が解消されず賃金が引き続き上昇し失業率が低下したままであるという、実に複雑な状況に陥っているということになります。
しかし、現在は実質金利が上昇すれば景気が悪化し株価も下がるという過去のパターンでもありません。
この原因は以前にはなかった労働力不足と賃金上昇が原因となっているのではないでしょうか。
しかし、製造業では景気が悪化してきているのは PMI をみると明らかで、またAppleなど、ここ数年間の売上高成長率を見るとこちらも明らかに鈍化していますが、大幅な賃金引き上げにより消費が落ちない状況でなので ”リセッションは起きていない” という判断になってしまうのは致し方ありません。
また、ここ最近の賃金上昇については人種間格差がなくなった、逆転したことなども影響しているようです。
現状は従来の経済学の枠組みでは判断しずらいものになってしまっているという認識を持っておいた方が良いのではないかと思います。CPI が下がったと言っても政府が価格統制をおこなっているエネルギー価格が下がっているからであって、何度も書いていますが、コア指数は依然として高水準にとどまっています。
また、一部景気悪化が認められるものの全般としては堅調に推移しているため更なるインフレ懸念から利下げを実施するわけにもいかず、利上げ回数は減少するにしても高止まりの状況で様子を見ようということですから、楽観的にも悲観的にも判断できないというのが正直なところなのではないでしょうか。
したがって、早期の利下げはないということです。
ちなみに、先月のジャクソンホールの講演会でどっちつかずの発言をしたパウエルですが、FEDとしてもどうしようもないという態度が見えます。
いつもながら表面的なニュースで大騒ぎする市場に呆れているのが本当のところだと思いますが、もしこのニュースの通りなら、今後の金融政策がサプライズを伴うものになり市場が乱高下することになりそうです。
良い話ならいいですが、ネガティブサプライズだと大幅に下がることになり、FEDにとっては都合が良いかもしれませんが市場にとってはあまり良い策とは思えません。
こうしてみてくると賃金が鍵を握っていると言えますが、賃金水準が低下してくると今度は一気に経済が悪化してくるかもしれません。一部の製造業では賃金の低下が今後どこまで全体に波及してくるのが注目ポイントになります。
また、リセッションなどは後付けで判断されるものですからリセッション宣言が出てから投資の対応をしても時既に遅しということになります。
以上、金利から見たアメリカ景気を確認してみました。今のところ大幅に景気が悪化する兆候はありませんが、先週見た物流量減少や製造業の景況感の悪化、供給の仕組みの変化などを背景に徐々に悪くなってきているのも事実です。
全体の賃金上昇が停止し消費が一気に悪化するとインフレも治りますが、株価に与える影響も大きなものになるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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