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Weekly Quest <物流と景気>

(2023年8月28日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


物流から見たアメリカ景気


毎日の日の出時間がだんだんと遅くなってきていますね。8月も終わろうとしていますが、相変わらず暑さが厳しいです。今週はモノの動きからアメリカ景気を考えたいと思います。

消費動向が本当に堅調なのか、物流の動きを見ていきたいと思います。アメリカの経済成長を支えるのはGDPの半分以上を占める消費だと言われていますが、8月15日に発表されたアメリカの小売売上高は前回から上昇し非常に強い数字になりました。

消費は堅調で景気後退の兆しはないと以前からイエレン財務長官は言っていますが、本当にそうでしょうか?今回はモノの流れを物流から見て景気を考えていきたいと思います。


Eコマースが消費の全部を表すわけではありませんが、まずは小売の動向を考える上でAmazonの決算内容から見ていきたいと思います。Amazonの過去5年間の売上高推移と前期比の売上高成長率を見てみます。




青色は2018年から2020年までの四半期売上高(百万ドル)の推移でオレンジ色は売上高前期比成長率(Δ:デルタ/ 前期比変化率 %)を表しています。ピークは2020年のQ4(第四四半期)で前期比37%の増加でしたが、直近は9.4%の増加にとどまっています。

売上高は毎期ごとに増加していて五年間で3倍以上になっていますが、伸び率を見ると2020年から右肩下がりになってしまっています。ちなみに売上高が増加しているのはAWSの拡大が含まれているからですが、もしかすると小売部門は減少していて、AWSがそれを補っても売上高成長率が下がっているのではないかということになります。

理由はいろいろ考えられますが、単順に考えると供給の問題か景気鈍化のどちらかなのではないかと思います。売りたくても商品がない、もしくは消費者の需要が減少していることになります。

また、2018年から2020年までの成長率とそれ以降の成長率を比べると明らかに鈍化しています。これについてコロナ・リベンジ消費で店舗に買い物客が突進しているとも考えにくいです。Amazonの売上高だけがGDPの消費を表しているということはありませんが、これを見ると実は2020年から売上高の伸びの鈍化が始まり景気後退が始まっているのではないかと勘繰ってしまいます。

Amazonの1日の出荷数は40億個とも言われていますが、配達する人たちがいないと商売になりません。物流は船舶によるコンテナ輸送、港から各配送センターまでの貨物、トラック輸送、配送センターから各家庭までの配送に分けられますが、今回はアメリカでの国内輸送についてみてみようと思います。

アメリカでのトラック輸送は米国経済のバロメーターと言われており、製造品や小売品を含むすべての国内貨物輸送で運ばれる全体の70%を占めているといわれています。

この物流の変化を見るとこで今後の景気動向を考えたいと思います。ちなみに、小売売上高を推測するのに例えば Walmart の駐車場の混雑具合を航空写真で定期的に撮影し、混み具合から店舗の売上を予測しているというヘッジファンドもあると言われています。

アメリカでは各家庭までの輸送は Fedex、UPS、DHL、USPS(郵便局)が主に行なっていますので、特に Fedex と UPS の最近の輸送量がどうなっているのか?確認してみたいと思います。

まずは Fedex の決算を見てみます。Fedex のここ最近の売上高(Revenue・単位は100万ドル)と前期比売上高利益成長率(Δ・単位は%)は以下のようになっています。



これを見ると2020年Q2のコロナ禍がピークでその後は売上高、成長率共に横ばいが続いています。しかし、アメリカ国内での最近の取扱量も前年同期比で見ると減少が続いているということです。正確には増減を繰り返していると言うことです。以下の資料を見ると国内での取扱量が減少しています。


(Fedex決算資料より引用)


次に UPS の売上高(Rev)と変化率(Δ)を見てみます。



こちらも緩やかな拡大は続いていますが、伸び率としては右肩下がりの傾向です。


(UPS決算資料より引用)

上の図ではこちらもアメリカ国内での取扱量が減少しています。


アメリカで2つの物流企業の取扱高の頭打ちの兆候が見え始めています。あれだけ消費が堅調に見えるのに両社共に売上高もパッとしないし伸び率は明らかに鈍化していると言っても良いのではないでしょうか。

リベンジ消費で Eコマースをやめてリアル店舗に人が殺到しているとも考えにくいです。実は人件費高騰の影響を輸送価格転嫁しているから売上高はかろうじて維持しているだけかもしれません。

また、Amazonが自社配送を始めた影響があると言われていますが、両社ともにAmazonへの依存度が大きかったならもっと急激に売上高自体が減少するはずですが、売上高が急減した気配はありません。

徐々に取扱量が減少しているのはAmazonの影響というよりも実際は消費が減少しているのではないかと思います。これはやはりインフレの影響なのだろうと思います。

また、供給制限は先週のブログで見た通り、世界的な物流逼迫は起きてはいませんし、人手不足で宅配が届かないということが大規模に発生しているということでもありません。

配送センターに届く前の段階のアメリカのコンテナ取扱量は2022年の前半をピークとして減少し始め10月には大幅に減少しました。鉄道などの労使交渉も要因だとする説もありますが、政府の介入により大規模なストライキは発生しておらず、やはりアメリカ国内での需要が減少してきたと考えた方が良いのではないかと思います。

物流についてはステルス性もあり大きな変動が起きて始めて重大さに気が付くというものです。目に見えるような大きな変動が出てからでは遅いということもありますので、こういった些細な変化を前兆として認識しておくことも必要だと思います。

景気が悪くなり始めると利下げを期待する投資家が多いですが、景気が悪化してからの利下げは株価にはネガティブな影響しか与えないということも覚えておいた方がいいと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

参考記事: