小沢茜

1988年生まれ 4歳児を育てつつ都内で働きながら小説を書いてます。ジャンルはヒューマ…

小沢茜

1988年生まれ 4歳児を育てつつ都内で働きながら小説を書いてます。ジャンルはヒューマンドラマ?

最近の記事

短編小説/花火とチョコレート

第230回 オレンジ文庫 短編小説新人賞の「もう一歩の作品」です。 バイト先の好きな人がある日突然バイトを辞めた。もう想いは届かないと思っていたところ、彼から連絡が来て。大学生の幼い恋心を描いた作品。 —————————————————————————-  目で追うようになったら、それは恋の始まりなのだと思う。  雨の日でもバイト先に行く足取りが軽いのは、彼に会うのが楽しみだからだ。大学の講義が終わり、傘をさして駅に向かって歩いていく。  もう梅雨入りしたのだろうか、少

    • 短編小説/進化する河童

      第230回 オレンジ文庫短編小説新人賞で「もう一歩の作品」に入った作品です。 陶芸家の彼と同棲するキャリアウーマンが、突如家に現れた河童像をどう売り出すかを考える、ほっこり日常系のお話です。 —————————————————————————-  家に帰り、ドアを開くと河童が鎮座していた。少し大きめの猫が座っているくらいのサイズ感で、陶芸用の粘土で作られたものだった。河童は筋肉隆々で、競泳選手のように鍛えられた肉体美で、誇らしげに座禅を組んでいる。玄関を上がった先の少し

      • 創作備忘録③いつまで書き続けるか

        プロの作家を目指して小説を書き始めて三年が経過した。厳密に言えば、初めて小説を書いたのが八年前のことなので、小説家になりたいと思ってから丸八年が経ったということになる。 この八年で「了」の字を打って完成させた作品は長編三篇、短編八篇。そう考えると少ないなと思うと同時に、でも本格的に書き始めたのは三年前だからな、という言い訳も浮いてくる。どっちみち別に多くない。今年公募勢サークルに入って、自分とは比べ物にならないほどの執筆量の仲間を何人もお見かけして、自分は遅筆なのだと思った

        • 三題噺:「メイク」「ゲーム」「空」

          4月に公募勢サークルのオフ会で書いた三題噺です。 くじ引きでお題を三つ引いて、自分が引いたキーワードを入れてショートショートを二十分以内で書くというものでした。 私が引いたお題は「メイク」「ゲーム」「空」でした。 楽しかった記念に、文字に起こしておきます。 ——————— 550字 ————————————————————————————— 「あゆ、あたし高坂くん狙うから邪魔しないでね」  萌が鏡に向かってメイクを直しながら言った。胸がズキズキと痛む。 「高坂くんと喋り

        短編小説/花火とチョコレート

          創作備忘録②作品を書き上げた後のメンタル管理

          書くのは好きだ。小説であれエッセイであれ、文章表現という行為そのものが好きなので、ここ最近はほぼ毎日コツコツ作品を作っていた。書いているうちは、集中して創作の世界に没頭しているのが苦しいながらも心地良い。だが書く手が止まると、途端に苦しくなるのだ。 仕事、家事、育児の合間を縫って、時間を捻出し作品作りに励んでいるうちは良い。自分が書いているのがつまらないんじゃないかと疑いながらも、信じて前に進む。出来上がりを目指してひたすら書く。時々、他の優れたエンタメ作品をインプットしな

          創作備忘録②作品を書き上げた後のメンタル管理

          創作備忘録①モチベーション維持

          本格的に小説を書くようになって三年目になった。仕事と育児、家事の合間に時間をみつけて、最初は断続的ではあったけれども、少しずつ小説を書くことが習慣化され、今では毎日小説のことを考えている。 なぜ書くのか。それは自分が好きだからに他ならなくて、書かずにはいられない情熱があるからだと思う。文章表現をしたい気持ちが根元的にあるわけだ。書くことが好きだから書く。それだけのことなのに、書いている途中で才能という言葉に逃げがちになって、いちいち自分の首を絞めてしまうことが多い。 自分

          創作備忘録①モチベーション維持

          【短編小説】しおからい/アンチ家系ラーメン文学 15,482字

           今も覚えているのは太陽が沈む前の一瞬のきらめき。水平線に一筋、黄金色の光がパッと眩き、そして火を消すように夜を告げる。田んぼだらけの田舎で暮らしていた頃、空は広く、体全体がまるっと暗い藍色に飲み込まれる瞬間が好きだった。  大学を卒業して、もう何年経つだろう。上京したのは大学進学の時だから、東京暮らしももう慣れたもの。それでも丸の内地上三十階の労働監獄に一日十二時間くらい身体拘束されていると、太陽が今日も地球の裏っ側に沈んでいく瞬間を見て味わうような心の余裕などあるはずもな

          【短編小説】しおからい/アンチ家系ラーメン文学 15,482字

          【短編小説】置き忘れた花束/ほろ苦い片想いのお話

          「本当に人の事、好きになったことある?」 その一言が、矢となって心臓に突き刺さる。本気で好きになった人。遠い昔、確かに好きだった人。南の島の海みたいに綺麗な笑顔が脳裏に浮かぶー。  高校時代、隠キャでもない、陽キャでもない、むしろ不思議ちゃんで誰も友達のいないポジションの私は、クラスの中心人物に恋心を抱いていた。ほろ苦い片想いの行き着く先とは。 【モノコン2023 文藝×monogatary.comコラボ賞】邂逅に参加した作品です。 もしよろしかったら、こちらからご覧

          【短編小説】置き忘れた花束/ほろ苦い片想いのお話

          【短編小説】コーヒーブレイク/コーヒー嫌いな私がコーヒー好きになった話

           深い眠りについていたため、物音がした時、自分がどこで寝ているか分からなかった。暗く深い無意識の海に沈んでいたのに、突然花火が上がって、勢いで水面に打ち上げられたような気分だった。目を覚ますと寝室が明るくなっており、目の前には恋人の亮介がいた。私は寝ぼけた目を擦りながら、黙って彼を見ていた。そうだ、鍵を預けているから好きに入って来れるんだった。彼と交際を始めて我が家に泊まることが頻回になったところで、私は心を許して鍵を預けてしまったのである。好きな時に来てとは言ったけれども、

          【短編小説】コーヒーブレイク/コーヒー嫌いな私がコーヒー好きになった話