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週末エッセイ#42「新しい家族」

弟から突然「犬と猫どっちが好き?」と書かれたLINEが来た。

私は正直に「猫!」と答えた。


その謎の質問から1週間後、

実家に帰ると犬がいた。

犬種はミニチュアダックスフンド。

……なるほど、そういう事だった。


私は小学生の頃から犬が、特に小型犬が、特にミニチュアダックスが苦手だった。

大学生になったあたりから段々「苦手」というほどでも無くなってきたのだが、ミニチュアダックスだけは別で、どうしても苦手だった。

その理由は、小学校低学年の頃に仲良くしていた、いじめっ子のミィちゃんが飼っていたのがミニチュアダックスだったからだ。

以前の記事に書いた通り、私はミィちゃん宅の犬二匹を狂暴なケルベロスだと思っていた。

ミィちゃんの家のチャイムを押すと、ケル…ミニチュアダックス2匹が全速力で駆けてきて、ギャンギャンギャンと吠えまくった。

「喜んでいるんだよ」とミィちゃんは言っていたが、いつも私に意地悪してくるミィちゃんの家の犬が、私を見て喜ぶわけがない。
喜んでいたとしてもそれは、「ターゲット見つけたり」の意味だろうと思った。

ミィちゃんの家の玄関にあげてもらった瞬間、その犬が思いっきり足首を噛んだ事がある。

あの時の光景を今でも鮮明に覚えている。ケルベロスのうちの一匹の口が私の足に近づき、歯を足に沿わせて、がぶっと行った。世界がスローモーションに見え、知らない痛みが身体を走った。まだ小学2年生だった私は金切り声で叫んだ。

すると当然ケルベロスも驚いたのか、ミィちゃんの家の奥に逃げて行った。
ミィちゃんは私ではなく、ケルベロスの方に駆け寄り「ビックリちたねえ〜!」と言い、二言目にやっと「噛んじゃだーめよ!」と言った。
大人になった今なら「まあ、犬も私にビックリしたんだな」と思う心の余裕があるが、小学2年生の私は飼い主同様凶暴な奴め!!と、心の底からケルベロスとその飼い主を非難した。

すべてのミニチュアダックスが凶暴なわけはないとはもちろん思っていたが、どんな事でも、ファーストインプレッションというのはかなり強烈な影響を与えてしまうもの。それからの人生、私はずっと道端でミニチュアダックスを見かけると「吠えられるかも。噛まれるかも」とおびえるのだった。

さて……

ミィちゃんの家のケルベロスはブラウンの毛をした子たちだったが、うちに来た子は「ブラックタン」と呼ばれる、真っ黒の毛とクリーム色の毛が混ざった子だった。見た目が違うことに、まずは少し安心。

そして私はおそるおそる新しい家族に近づいた。

彼はゆっくり近づいてきた私の膝の上にトコトコよじ登り、顔をぺろぺろ舐め初めた。

初めて会ったのに吠えないし、噛みもしない。

こんなおとなしい子もいるんだ…

「今の所、道端で大きい犬に会った時くらいしか吠えないよ」と母が言った。

私の記憶の中にある光景とまったく違う…

これからこの子が、私の犬に対する想いをどんどん塗り替えていってくれるのだろうか。

もしかすると、この子と過ごすことで、ミィちゃんの家のケルベロス2匹に対するイメージもまた変わるのかもしれない。

うちに来てよかったと思ってもらえるように、幸せに過ごしてもらおう。

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