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おすそわけ日記 28 「素晴らしすぎる、映画『シュヴァルの理想宮〜ある郵便配達員の夢』」

憧れの宮殿に、映画の中で出会えた。

二十世紀初め、フランスに建てられた建築物。ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルという郵便配達員が、三十三年かけて、たった一人で石を積み上げて作った。

こう書いただけで、胸ときめいてしまう。一体、どんな宮殿なのだろうかと。島田荘司の小説中でも奇妙な建築物として取り上げられていて、焦がれる気持ちが募った。

そのシュヴァルの宮殿の制作実話を元にした映画が公開されていると聞いたら、行くでしょ、何が何でも。

感想は、一言で言うと、素晴らしかった。

現在も残っている宮殿で撮影の殆どがなされたそうで、それだけでも一見の価値がある。建築の知識がまるでない、でも、世界遺産オタみたいな人間が、石を拾っては積み上げて作りこんでいくと、こんなすごいことになっちゃうのかぁ。いろんな文化が入り混じっていて、勢いのある面白さを感じる。

物語としては、人付き合いが不器用な男の家族愛のストーリー、と云うことになるのだろうけれど、そう云うカテゴライズをしない方がいいと思う。私は終始、涙ぐんでいたが、別にここが泣かせ所と持ち上げられた訳ではなく、全てのシーンが淡々とした見せ場だった。

それは、シュヴァルを演じた主演のジャック・ガンブランの佇まいで見せる演技力と、監督のニルス・ダヴェルニエの美しい画面作り、特に光の使い方による表現に負う所が多いと思う。

私が特に心惹かれたのは、瞳の陰影で感情が伝わって来るところ。薄暗い部屋に座る、シュヴァルの絶望して生気のない真っ暗な瞳。目の前の扉が開いて顔に光が射す。瞳に光が映って、あぁ、それでもまだ生きているのだ、生は終えられないのだと、そう、私は受け取った。

妻と抱擁するシーンでも、二人の身体の重なりが少しずれていて、そこに陽の光が当たることで、なんとも言えない優しさや温かみを感じた。

私はWOWOWっ子で、映画を見そびれてもすぐにWOWOWで放送されるからと高を括っていたりするが、この映画は繊細な映像表現と奇抜で荘厳な宮殿を見るために、映画館で見ることをオススメする。

【今日の一枚】映画館に飾られていたシュヴァルの宮殿のジオラマです。そう言えば、うちの曽祖父は、マッチ棒で目黒のお不動様を作って家に飾っていました。四十センチ四方位の代物だったのですが、系列はシュヴァルと同じだなと、今日、改めて思いました。

今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。