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akaneおすそわけ郵便 第二十二回「美しい物を身の内に」

私は、歌舞伎をよく知らない。

花柳界で生まれ育ったのに。大学の専攻が江戸文学だったのに。

寧ろ、江戸や日本の文化に子供の頃から親しんでこだわりがあったために、歌舞伎に興味がなくなったのだと思う。

江戸前は渋い色合いや柄行きで、着物の裏地や襦袢に凝るイメージ。歌舞伎は、煌びやかに歌舞く物。私の中でちょっと違うんだよなぁとずっと思い込んできた。

それが今、母と一緒にテレビで中村勘三郎と七之助の「鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)」を見ている。

貧しい鰯売りが大名に身を偽って、高嶺の花の遊女、蛍火を買いに行く物語。おめでたいラブコメと云う感じ。原作者を調べたら、三島由紀夫だったので吃驚した。

コクーン歌舞伎や平成中村座が始まった辺りから、歌舞伎が「高尚なお芝居」から「猥雑な娯楽」に帰って来て、このテイストは、私が肌で感じる地続きの江戸の風に近いなぁと感じ、歌舞伎にも興味を持つようになった。

元々、三味線を聞いて育ったので、鳴り物が入る歌舞演曲は全てBGMとして耳に心地良いのだが、ただ聞き流していたのを、遅まきながら、今はちゃんと画面も見ている。

若い頃は、自分の美学の枠が狭くて決め込んで生きて来た。年を重ねるにつれて、肩の力が抜けて、好奇心が増しているように思う。

「美しい物を沢山、身の内に入れたい。」その欲が、今の私を動かしている。


【今日の一枚】祖母がお世話になった歌舞伎役者の守田勘弥さんが描かれた色紙。送って頂いていた葉書(写真)もあるのですが、すぐにみつからなかったので代用でお許しください。

【akaneおすそわけ郵便】は、大橋あかねが三十年以上かけて集めたポストカードに、自分の日常や愛するモノについてなど、その日の気分で書きたいことを書いて郵送でお届けすると云う企画です。こちらは、そのnote 版。今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

(C)akane ohashi 2019, 2020

毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。