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喜劇

供養
少年マガジン原作大賞の結果待ちの間、心の不安を埋めるために書いた漫画原作。
結構好きなシナリオではあるんだけど、本当に焦って書いたせいで設定を全然作り込まずにラストまで走りきっちゃった。
設定を練る段階なら色々試行錯誤ができたんだろうけど、如何せん書ききっちゃったせいで手をつけづらくなったシナリオ。
好きな展開と好きな世界観なのでどうにかしてあげたいと思い、ここで供養します。もしかしたら復活させるかもしれないけど。

ちなみに、シンプルすぎるこの『喜劇』というタイトル、トップクラスに気に入ってます。



人物表

藍澤凪(6・15)隠密隊副隊長
伊波雪(6・15)伊波八雲大社次期当主
伊波残雪(44・53)雪の父・現当主
伊波雪麿(49)雪の叔父
伊波灯子(44)雪の母親
藍澤縁(40・49)凪の父親
九藤(42)伊波八雲大社霊媒師
忘(10)九藤の娘・忌み子
筒井正太(14)伊波八雲大社隠密隊隊員
島田(46)関東焔会幹部
黒子1
黒子2
黒子3

本文

○伊波家・主人居間(夜)
畳張りで教室ほどの広さの和室。掛け軸や巨大な屏風、老爺柿の盆栽など、豪華に飾り付けられた内装は血に濡れている。主人居間の周囲は炎が上がっており、メラメラと音を立てている。
凪「(N)……人生は、遠くから見れば喜劇らしい」
室内中央には石竹色の和服を着た伊波雪(15)が、左肩から右脇腹までの大きな切り傷から血を流しながら倒れている。雪の前には、刀を持った藍澤凪(15)が呆然と立ち尽くしている。凪は左目に切り傷がある。
凪「(N)波のように絶え間なく訪れる絶望も、星のように仄かに輝く希望も、遠くで見てる誰かにとっては喜劇らしい」
凪は絶望した顔で雪を見ている。
凪「(N)……じゃあ、これも喜劇なんだろ。笑えるか?」

○高島運送・廃倉庫(朝)
薄暗く寂れた体育館ほどの広さの廃倉庫内、ウインドブレーカーを着た凪と袈裟姿の九藤(42)、黒子の格好をした筒井正太(14)と、同じように黒子の格好をした者が15人ほど立っている。正太は腰に日本刀を差しており、黒子の内の二人は日本刀を持って凪を囲んでいる。黒子1が凪に切り掛かるも、凪は振りかぶられた刀を足場にして軽く飛び、右手で黒子1の頭を地面まで勢いよく押さえつける。着地した隙を黒子2が切り掛かるが、凪は黒子2の足元まで瞬時に潜り込み、黒子2の胴体に蹴りを入れて吹き飛ばす。正太は日本刀を鞘に納めたまま、凪まで一気に間合いを詰め、抜刀と同時に凪を切ろうとするも、凪はそれを伏せて躱す。抜刀の隙が出来た正太の胴体に凪が殴りを入れるも、凪の右拳の先にあるのは黒子の服のみになっており、拳は空を切る。正太は黒子の服を囮に使い、攻撃を躱して凪の頭上に飛び、両手で握った日本刀で凪を上から切り掛かろうとするが、凪は地面に落ちた鞘を頭上の正太に向けた投げて撃墜させる。正太は地面に仰向けで倒れる。
正太「あー! くっそー!」
それを離れた場所から見ていた九藤が懐から赤い札を取り出す。
九藤「はい。ちょっとゾクっとするよ〜」
九藤は取り出した札を、日本刀を腰に指した黒子3の背中に貼り付ける。貼られたお札は次第に赤黒く変色し、ドロドロと溶けて無くなる。それと同時に周囲に黒いオーラが集まり、黒子3の体に吸い込まれていく。黒子3はブルブルと震えた後、人間離れしたスピードで凪までの距離を詰め、間合いに入った瞬間に超人的なジャンプを見せる。黒子3は空中で刀を抜くと、刀の刀身が青い炎に包まれる。
九藤「やべ、札の出力間違えた」
刀を覆う青い炎はどんどんと大きくなっていき、倉庫内の温度を上昇させる。刀身の炎は黒子3の服に燃え移る。服が焼かれていくことで黒子3の顔が顕になるも、その顔は我を失ったような狂気的な目で凪をじっと見ている。
正太「へぁ!? ちょっとちょっと!」
仰向けに倒れていた正太は、燃え上がる青い炎の刀を見て咄嗟に起き上がり逃げる。凪は黒子3から目を逸らすことなく、じっと間合いを見極め、黒子3に向かって飛ぶ。凪が黒子3の間合いに入った瞬間、燃え盛る刀で斬りかかろうとするが、凪は黒子3の背後に向かって軽く息を吹く。息を吹かれた黒子3は力無くその場に落下していく。燃え盛る刀身の炎は消え、黒子3から黒いオーラが離れていく。凪は着地して一息つく。
九藤「ごめんごめん。稽古で使う札じゃなかったね」
九藤が気まずそうに笑いながら凪に近づく。
正太「ホントですよ九藤さん!」
凪「いや、平気だ。僕は問題ない」
九藤「平気か。貴重な札だったんだけどね。それはそれでだな」
正太「俺らのための稽古なんですよ? 副隊長の稽古じゃないのに!」
凪「服を囮にする所までは良かった。でもその後の攻撃がいつも通りすぎる」
正太「あー、そっかー……。あの! 副隊長もう一度だけ……!」
九藤「いや、時間だね」
正太「えっ!」
正太は咄嗟に壁にかけられた時計を見る。時刻は8時30分を示している。
凪「また明日だ、筒井」
正太「あぁ、そうですね……」
九藤「今日は大切な日だからね。仕方ないよ」

○伊波八雲大社境内・本殿前
晴天である。大きく荘厳な本殿までの参道に、藍澤縁(49)と凪を初めとする大勢の黒子が、傍らで傅いている。本殿近くの参道脇には袈裟姿の九藤と、数名の霊媒師が傅いている。
凪「(N)伊波八雲大社。関東で唯一、現と霊界の行き来ができる神門を管理する神社。……僕ら隠密隊は、神門と当家である伊波家の人間を護衛するためだけの組織。そして……」
両脇に傅く黒子と霊媒師が並んでいる参道を、和装姿の伊波残雪(53)と伊波灯子(44)が隣り合ってゆっくりと歩いている。その一歩後ろには十二単を着た雪が歩いており、そのまた一歩後ろには神主姿の伊波雪麿(49)が歩いている。四人はゆっくりと静かに参道を歩いていく。雪は冷たい表情を一切変えずに、凪の前を通り過ぎる。凪は頭を下げた視線の先に、雪の影が通り過ぎていくのを見ている。
凪「(N)彼女が伊波雪。伊波八雲大社次期当主。つまり、僕達が最優先で護るべき存在」
四人はゆっくりと歩いていき、本殿に辿り着く。四人は本殿に背を向け、参道の方に体を向ける。
雪麿「これより、伊波雪の誕生祝賀の儀及び、次期当主の宣誓を……」

○(回想)伊波家・主人居間前(朝)
風神雷神の絵があしらわれた巨大な屏風の前に、黒子の格好をした縁(40)
と凪(6)が立っている。凪は緊張した様子で縁を見ている。
縁「いいか凪。これからお会いする方は……」
縁は前を正面を見たまま、淡々と言う。
縁「お前の命よりも優先して護るべきお方だ」
縁は不安そうな凪の顔を見る。
縁「死んででも護れ。これがお前の使命であり、お前の存在理由だ。分かったな」
縁は表情一つ変えず、冷徹な眼差しのまま凪に向けて言う。
縁「姿勢を正せ。無礼が無いようにな」
凪は不安な表情のまま、縁とともに屏風に近づく。
縁「……失礼します」
縁が屏風を開ける。

○同・主人居間(朝)
主人居間に縁と凪が入る。中には和服を着た残雪(44)と雪(6)が座布団に座っている。雪は二人を冷たい目で見ている。凪は雪の目を見て、咄嗟に傅く。
凪「(N)……屏風を開く前まで父の言ってたことがよく分からなかったけれど、この瞬間に全て理解したのをよく覚えている。当家である伊波家と隠密隊の、覆ることのない圧倒的な身分差。長い歴史の主従関係。僕の存在理由。その全てが、あの冷たい目を見た瞬間に理解できた」(回想終わり)

○伊波八雲大社・境内・大和池庭園
黒子姿の凪が、金色の鯉と黒色の鯉が泳いでいる池をしゃがんでボーッと眺
めている。池の隣には葉が完全に落ちた桜の木が植えてある。
凪「(N)……僕らは影。伊波家の存続の為にただ命を全うする従順な僕……」
ボーッとしている凪の後ろに私服姿の雪がこっそり近づく。
雪「……何してんのっ!!」
凪「……ッ! っくりしたぁ……」
雪は凪の隣に並ぶようにしてしゃがみ込む。
雪「ホントここ好きだなー。そんなに見ててもこれ以上大きくならないよ、多分」
凪「そ、外だぞ!? 叔父君に見られたら……」
雪「いーんだよ。あのジジイも私が嫌ってること知ってるだろうしもう気にせんよ。それより、今日も映画観るでしょ?」
凪「あ、あぁ……、観ようかな……」
雪が立ち上がって池から離れる。
雪「じゃ、早く着替えてきなさい」
凪「分かったよ……」
凪も困ったように立ち上がる。
凪「(N)僕があの時理解したことは概ね間違っていない。一つ、理解しきれなかったことがあるとすれば、当家側が長い歴史の主従関係にうんざりしていた、ということだ」

○(回想)伊波家・主人居間(朝)
主人居間で座布団に座っている雪と残雪。二人の前で縁と凪が傅いている。
残雪はその様子を苦笑いで見ている。
凪「(N)……先代の当主がご存命の時は、まだ古くからのしきたりに従った厳しい主従関係があった。しかし、雪の父君にあたる残雪様がそれを嫌い、伊波家と隠密隊の主従関係を徐々に取り払っていった。当然反対の声もあった。未だに先代当主派の雪麿様は隠密隊をよく思っていない。それでも、完全とは言い切れなくても、僕らは少しずつ日の下に出れるようになった」

○伊波八雲大社・境内・大和池庭園
黒子姿の凪がしゃがんで木陰に隠れながら池を眺めている。
凪「(N)……残雪様が主従関係を取り払おうと決めたきっかけは雪にある。残雪様は、雪に子供らしくいてほしいと願っているが、伊波家に生まれれば普通とは程遠い人生を過ごすことになる。そんな雪を憂いた残雪様が、僕が雪と同い年であるということを知って決断されたそうだ」
凪の後ろから雪がこっそりと近づく。
雪「……何してんのっ!」
凪「うわっ! びっくりしっ……!」
凪は驚いて立ち上がるが、雪の顔を見て咄嗟に傅く。
凪「ごめっ……、申し訳ございません。ゆ、雪様がっ、こんなとこにいると思ってなくて……」
雪「もー! そういう感じやめてよ! ゆきと君は同じ6歳なんだよ? 知ってた?」
凪「……はい。父から聞きました……」
雪「だから! そういう感じじゃなくて! 私と友達になってよ!」
凪「……えっ?」
凪は困惑した表情で顔を上げる。
雪「友達になって! 同い年って、友達になるんでしょ? ゆき知ってるよ!」
凪「いやっ……、で、でも僕は隠密隊で、雪様は……」
雪「ゆきが良いって言ってるからいいの!」
凪はどうしたらいいのか分からないといった様子で助けを求めるように周囲をキョロキョロと見る。
雪「……分かったよ。じゃあこれは命令ね! 君は隠密隊としてゆきの友達になりなさい。フツーの友達に!」
凪「分かりました……?」
雪「分かった、でいいの!」
凪「……分かったよ」
凪は困惑が隠せない表情で立ち上がる。
凪「(N)つまり僕にとって雪は、命に換えてでも護るべき存在であり、……唯一の友人でもある」
雪と凪の様子を、残雪と縁が茂みの影から覗き見ている。
縁「本当によろしいのですか……?」
残雪「いいのいいの! 私もこの家に生まれた人間だからね、雪にあんな思いをさせたくないって思ってるの」
縁「ですが……」
残雪「僕らは子を持つ親なんだから、子供に子供らしくさせてあげるのも親のつとめだよ」
縁は、困ったように笑う凪の顔を、茂みの影から覗き見て顔が綻ぶ。
縁「……そうですね」(回想終わり)

○伊波家・地下室・ミニシアター(夕)
小さな劇場のような室内に、私服姿の雪と凪が椅子に座っている。二人の視線の先には映画が投影されている。雪と凪はそれを集中した様子で観ている。
雪「……実際さ、死んだらどうなると思う?」
凪「……海の話をするって言ってたじゃん」
雪「それはこの映画の中の話でしょ。実際の話! 死んだらどうなるんだろうね」
凪は困った顔で俯く。
雪「私が思う死後の世界の話していい?」
凪「……どうぞ」
雪「……きっとね、未練なく死ぬことができたら、映画館に行くんだと思う。誰一人いない劇場で、自分の走馬灯が映画として流れるの。エンドロールには私と、色んな人の名前が流れる。家族とか、友達とか……」
凪「……そんなロマンチックなこと、ずっと考えてたの?」
雪「ううん。この映画を観て今考えただけ」
雪は寂しそうな目で映画を観ている。
雪「本物の海も映画館も、行ったことないなぁ……」
雪が悪戯っぽく笑いながら凪を見る。
雪「ま、でも、私には凪がいるからね! 護ってくれよなー」
凪は俯いて照れたように笑う。
凪「……うん、死んでも護るよ」

○伊波八雲大社・神霊館(夜)
十畳ほどの広さの和室に、和服姿の雪麿と、スーツ姿の島田(46)と、同じようにスーツ姿の男二人が座布団に座っている。室内は行灯の灯のみで薄暗い。
雪麿「伊波八雲大社は腐った。取るに足らない者共を日の下に晒しておきながら、実の弟である私をまだ日陰に隠そうとしている。剰え、時期当主を齢十五の娘に任せると!」
雪麿の手が怒りで震える。
雪麿「……この腐ってしまった大社を、私が立て直す! 私が当主になる!」
雪麿は興奮した様子で立ち上がる。
雪麿「そのために、貴方達の力をお借りしたい。当然タダでとは言わない。焔会に手配する霊媒師を増やそう。その代わりに……」
雪麿は不適な笑みを浮かべる。
雪麿「あの娘の首を持ってこい」

○伊波八雲大社・境内
ウィンドブレーカーを着た凪が伊波家に向かって歩いている。ポケットに入
った凪のスマホから通知音が鳴る。凪がスマホを取り出して画面を見ると、
『今日は一人で映画観たいから、来なくていいよ。』と、雪からのLINEの通
知が届いている。凪はそれを確認すると、目にも止まらぬ速さで走り出す。

○伊波家・地下室・ミニシアター
室内ではスーツ姿の島田が右手で私服姿の雪の胸ぐらを掴んで持ち上げてお
り、左手でスマホを持っている。二人の他にスーツ姿の男が五人、雪を囲む
ようにして立っている。
雪「どうやってここまで……!」
島田「良いお友達がいるんだ。羽振りの良いお友達がね」
ミニシアターの扉を凪が勢いよく開く。凪は血走った瞳で島田達を見る。
凪「……何者だ。お前ら」
雪「凪っ!」
島田達は咄嗟に凪の方を見る。島田は雪を離す。
島田「おい、次期当主サマからの命令は守れよ。なーんでバレたんだよ」
島田が左手に持ったスマホを捨てる。
凪「雪は基本的に一人で映画を観ない。鑑賞後の感想会が好きだからな。それと……」
凪は呆れた表情で島田を見る。
凪「雪が僕に向けてのLINEで句読点を使うような丁寧な人間な訳ないだろ」
雪がフッと笑う。
島田「ま、構わねぇや。まずそいつから殺せ」
島田以外の男達が拳銃を懐から出し、凪に向かって発砲する。凪は咄嗟に姿勢を低くし、発砲した一人の男の足元に潜り込むと、立ち上がる勢いを使って男の顎に蹴りを入れる。凪は気絶した男から拳銃を奪い、残る四人の男の頭部目掛けて正確に発砲する。男達はその場に倒れる。凪は、ミニシアターの扉を背にする形で、拳銃を島田に向ける。
島田「……俺で最後だと思ってる?」
凪の後ろから、緑色の札が貼られた日本刀を持つスーツ姿の男が刀を振りかぶりながら入ってくる。凪は咄嗟に後ろを向いて一歩下がり刀を避ける。刀身は凪に当たらず空ぶったが、凪の左目には切り傷ができる。凪は左目を抑えながら、刀を持った男の頭部に発砲する。男は倒れる。
凪「刀に風の札……、霊媒師がいるのか……?」
凪の左目からドロドロと血が流れる。雪はそれを見て心配と不安から過呼吸になる。
島田「どうだろうな。その左目で視て確認しろよ」
ミニシアターの扉から、同じように札の付いた刀を持った男たちが十人程入ってくる。刀を持った男達は凪を囲むようにして立つ。凪は左目を押さえながら肩を震わせる。
凪「フ、フフ……、ハハハッ……」
凪は左目から手を離す。凪の顔は、左目から流れる血液で赤く染まりながら、狂気的な笑みを浮かべている。
凪「……楽しくなってきたな」
凪がそう呟くと、次の瞬間に島田の頭が弾けている。

○高島運送・廃倉庫(朝)
廃倉庫内に、五十人ほどの黒子が並んで立っている。黒子達の前には、同じく黒子姿の縁が顔を出して立っている。縁の一歩後ろには、左目に眼帯をつけた凪が立っている。
縁「先の襲撃、我々は意識を改めなければならない。幸いなことに次期当主様は無事。我々の犠牲も……」
凪「(N)……あれから、雪は笑わなくなった」

○伊波家・主人居間
室内で残雪が書類に目を通している。その隣で、生気の宿っていない眼差し
の雪が本を読んでいる。部屋の隅には、黒子が二人立っている。
凪「(N)今回の襲撃が境内で行われたということもあり、残雪様は伊波八雲大社、親族、隠密隊、その他職員に向けた徹底的な調査を行なったが、成果は得られなかった」

○同・主人居間前
屏風の前に、黒子姿の正太と、もう一人の黒子が立っている。
凪「(N)残雪様は伊波家の人間に対して、常に二人以上の隠密隊を配備することを決定した」
主人居間の前を和装姿の雪麿と、黒子二人が通る。屏風の前にいた正太と黒子は雪麿に対して傅く。雪麿はその様子を見てニヤリと笑い通り過ぎていく。
凪「(N)今回の襲撃事件、雪は無傷だった。しかし、襲撃がきっかけで残雪様が与えたかった普通と、雪自身の自由を奪う結果になった」

○伊波八雲大社・境内・大和池庭園(夕)
満開の桜の下で、左目に傷を付けた凪がしゃがんで、池を泳ぐ金色の鯉を眺めている。
凪「(N)……襲撃から二ヶ月経っても、雪の笑顔が戻ることはなく、映画を観ることも無くなった」
凪がボーッと池を眺めていると、後ろからボブカットで甚兵衛を着た忘(10)が近づいてくる。
忘「……何してるの?」
凪は咄嗟に振り向く。
忘「こんな所で、何してるの?」
凪は困った表情になる。
凪「いや、別に何って訳じゃ……」
忘「こんな所、いちゃダメだよ」
凪「えっと、君は……?」
忘「居るべき所にいなきゃ、後悔するよ」
凪は困ったように笑う。
凪「えっと、その服装は霊媒師の……」
凪の言葉を遮るように、境内に爆発音が響く。凪が爆発音の方向を見ると、
伊波家が炎上しているのが見える。凪はそれを見て走り出す。
忘「知らないからね。後悔するよ……」

○伊波家・前(夕)
炎が上がる伊波家の前に、凪が走ってくる。凪は燃え上がる伊波家を見て絶
望した表情になるも、すぐに玄関から中に入る。

○同・玄関(夕)
玄関には赤い札が付いた日本刀を持った男が立っている。凪は、その男に気
づく隙すら与えずに胴体に蹴りを入れる。男は刀を落として壁まで吹き飛ぶ。
男「……ッ!」
凪は男が落とした刀を拾い、男の頭部を素早く、正確に突き刺す。男の体が
燃え上がる。
凪「これは……」
凪は刀に貼られた札を剥がす。
凪「伊波の札か……?」
凪が手に取った札はドロドロと溶けて無くなる。廊下の奥から爆発音が聞こえる。凪は燃え上がる炎も気にせず爆発音が鳴った方へと走る。

○同・廊下(夕)
燃え上がる長い廊下を凪が走る。
凪「(M)雪……、待ってろ……!」
凪の前に一人の黒子が立ちはだかる。
凪「隠密隊の者か! 何があった!」
黒子は凪の声に耳を貸さず、凪に向けてクナイを投げる。
凪「なっ……!」
凪は飛んでくるクナイを、立ったまま上半身を後ろに逸らして避ける。目の
前を飛ぶクナイを空中で掴み、上半身を元に戻す勢いで黒子に投げる。クナ
イは黒子の左胸に正確に刺さる。黒子はそのまま正面に倒れる。背中には札
が貼られている。
凪「何が起きてるんだ……!」

○同・主人居間(夕)
メラメラと燃える音が聞こえる室内、日本刀を持つ雪麿と、怯えた様子の雪、それを庇うように前に立つ残雪がいる。雪は石竹色の和服を着ている。雪麿は泣きながら笑っている。
雪麿「兄上、本当はこんなことしたくないんです。本当ですよ、兄上」
残雪「……何が目的なんだ」
雪麿「……え? 今更話を聞いてくれるって言うんですか? 何十年と聞いてくれなかったというのに……?」
雪麿は刀を振りかぶる。
雪麿「……後悔を数えて、私を呪って死んでください、兄上」
雪麿は残雪に向けて刀を振り下ろす。

○同・居間(夕)
走る凪に、一人の黒子が横から日本刀で切り掛かる。凪は一歩後ろに下がって刀を避ける。黒子が刀を空ぶって出来た隙に、凪が胴体に向けて殴りを入れようとするが、黒子は凪の腕を掴み、慣性に任せて壁に投げる。
凪「くっ……!」
凪は壁にぶつかる前に両足左手の三点で勢いを殺し、低い姿勢で黒子との距離を測る。凪が前を見ると、黒子は日本刀を鞘に入れたまま、凪目掛けて走ってくる。間合いに入った瞬間、黒子は抜刀と同時に凪を切ろうとする。凪は更に低い姿勢で刀を交わし、黒子に向けて蹴りを入れるが、蹴りは黒子の服のみを捉え感触がない。凪の真上に、上半身裸で、額に黒い札を貼られた男が拳を構え、落下の勢いで凪を殴ろうとしている。凪は咄嗟に落とされた刀を手に取り、男の胴体を切り裂く。男の真っ二つになった体が畳に落ちる。
凪「ハァ……、ハァ……」
凪は日本刀を持ったまま立ち上がる。凪は、黒子の額に貼られた札を剥がす。瞳に生気のない正太の顔が顕になる。凪は感情を押し殺した表情でありながら、刀を持つ手が怒りで震えている。

○同・主人居間前(夕)
刀を持った凪が主人居間の前の屏風に走ってくる。屏風に、左目が抉られ、右腕が切断された縁の死体が寄りかかっている。
凪「ち、父上……?」
主人居間周辺まで炎が達する。縁の死体が寄りかかっていた屏風が燃え尽き、主人居間にいる雪麿の後ろ姿と、震えながらも立っている雪の姿が見える。

○同・主人居間(夕)
燃え上がる室内、切られた残雪の死体が転がっている。左手に日本刀を持った雪麿が、雪の前に立っている。
雪麿「雪、貴様が私に当主の座を一任することを宣言してくれるのであれば、命だけは助けてやろう」
雪「……当主の座が欲しくてこんなことしたの?」
雪麿「十五の娘に、私の長き苦悩を理解できるまい。まだ死にたくないだろう?」
雪「理解できないね。そんな陰気じゃないし」
雪麿「……私とて、姪を殺したくない」
雪は下を向いて長く息を吐く。雪の震えが止まると、雪は残雪の目を見る。
雪「日陰がお似合いだよ、クソジジィが」
雪麿は怒りが籠った表情で日本刀を振りかぶる。凪が燃え上がる炎を突っ切
って主人居間に入ってくる。
凪「雪っ!」
凪は雪の前に立って、雪麿が振り翳す刀をその身で受けようとするが、刀は
凪の体をすり抜け、雪の体に切り裂いていく。倒れていく雪の体から鮮血が
噴き出る。
雪麿「ハハ……、やった……、やったよ……」
凪は倒れた雪の隣で、絶望的な表情で泣いている。
凪「ゆ、ゆき……、ゆき……」
雪「え……、凪……?」
雪がそう呟くと、笑みを浮かべて息を引き取る。

○霊界・映画館・スクリーン8
大きな映画館の劇場の中央の席に雪が座っている。雪がスクリーンで上映さ
れる映画を見ていると、凪が雪の席まで歩いてくる。雪が凪に気付く。
雪「よっ」
凪「……なんだよ、ここ」
雪「言ったじゃん。未練なく死ねたら映画館で走馬灯を観るんだって。ほら」
雪がスクリーンを指差す。スクリーンを見ると、凪がミニシアターで日本刀
を持ったスーツの男十人と戦闘している映像が映し出される。
雪「気付いてなかったみたいだけど、凪はこの時に死んだの。左目が見えなくなって、死角から心臓狙って刺されてね」
スクリーンに凪が刀で胸を貫かれてい る映像が映し出される。
雪「でもね、凪は本当に死んでも私を護ってくれたんだよ」
胸に刀が刺さったまま戦い続けている映像が映し出される。凪が雪を見る。
凪「……雪は未練なく死ねたの?」
雪「んー? まぁ海も行けなかったし、本物の映画館も行けなかったけど、最後に凪に会えたから未練は無いかな」
雪は笑って凪を見る。
雪「死んでも、じゃなくて死んでからも護ってくれてたんだね」
雪は再びスクリーンを見る。
雪「知ってる? 人生は近くで見ると悲劇だが、遠くで見ると喜劇である、ってチャップリンの言葉。私は殺されちゃったわけだけど、最後に凪に会えて、悪くなかったなって思ってるんだ」
凪は寂しそうな顔で俯く。
雪「観客として観れば私の人生はハッピーエンドに見えるし、確かに喜劇なのかもしれないなって思ったよ」
凪「……僕も一緒に観てもいいかな」
雪が凪の顔を呆れた表情で見る。
雪「ダメだよ。言ったでしょ? 未練なく死ねたら映画館に来るんだって」
雪は立ち上がって凪の手を握る。静かに泣き出す凪の体が光に包まれる。
雪「今は私についてきただけ。正しい成仏じゃないから、世界が凪を連れ戻そうとしてる。まだきちゃダメ」
凪「……何が、何ができるんだよ。雪がいない、何も守れなかった、僕の魂が残っただけの世界で、もうやり残したことなんて……」
凪の体がより強い光で包まれる。
雪「ここでは、私はライラで凪がロケット。凪にはまだ未練が残ってるはずだよ。いつか、凪が本当にやりたかったことを教えて」
雪が涙を流しながら満面の笑みを浮かべる。
雪「また一緒に、ここで映画を観よう。今度は爽快で、とびっきりの喜劇を」

○伊波家・主人居間(夜)
倒れた雪の横に、日本刀を持った凪が絶望的な表情で立っている。辺りはメラメラと燃えている。
凪「(N)僕らは人生の終わりに、走馬灯という名の映画を観る。監督、脚本は自分自身。幸せに気付けずに、惰眠を貪るような日々で悪戯に命を摩耗して撮影された映画を、根拠も無く喜劇になると信じて生きている」
凪「……全部、壊そう。雪のために」
凪「(N)……波のように絶え間なく訪れる絶望も、星のように仄かに輝く希望も、最後に遠くで観る僕にとっての喜劇になると信じて、幽霊になった僕は、ここから復讐を始める」






反省点
・回想多用し過ぎ
・アクションを文字で語り過ぎ。最低限で良い
・読み手を意識してなさすぎ。もう少し設定を説明しろ
・キャラクターの動機が凡庸過ぎ。人間ってそんな単純じゃない
・やりたいことに技術が追い付いてない
・意味深なことだけを言いにきた忘、二話以降を意識し過ぎ
・全体的なリサーチ不足と設定作り不足。これに尽きる。

良かったとこ
・ラスト 霊界の映画館は大好き。こういうシナリオばっか書いてたい。
・雪の人生哲学
・復讐物ってやっぱり良いね。僕は僕が書く復讐物が大好き。

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