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「反日とは何か?」 日韓対立について取材現場から感じたこと

12月18日に日韓青年会議からオファーを頂きオンライン講演会をさせて頂くことになった。約一時間の講演に臨むにあたり、若者に何を伝えるべきか悩みながら草稿を作成した。正直に言うと、日韓対立を煽るような言葉を並び立てることはオジサン世代で終わればいいと思っている。難しい問題を紐解きながら、なるべく公平なスタンスを持って頂けるような話をしたい。そんな気持ちで草稿を作った。オンライン講演会では、聞き手の熱が伝わりにくいので、僕のメッセージがどれだけ伝わったかはわからない。そこで改めて草稿をここに残しておきたいと思って当記事をアップしました。      

12月20日 赤石晋一郎

1 はじめに

 私は2020年に韓国についての本を出しました。タイトルは編集者によって付けられたもので、あまり気に入っていないのですが「韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」という本です。本では日韓歴史問題の新しい一面について書きました。

私が本を書こうとした動機は単純なものでした。韓流ドラマが流行し、韓国料理も親しまれているのに、なぜ日韓もしくは韓日関係は悪いと言われるのか。

その構造を知りたいと思ったのです。


私が日韓問題を取材するようになったのは2012年ごろからでした。当時は、李明博大統領が竹島に上陸するなどの報道もあり、日韓関係は急速に悪くなっていった時代でした。日本国民の間にも「嫌韓」という言葉が流行するようになり、現在に至るまで嫌韓を口にする日本人が一定数存在するようになりました。
 韓国でも状況は似たようなものかもしれません。「日本は悪い国だ」と考える人が一定数いる。特に韓国メディアは日本攻撃をする報道が多くあります。

日韓関係を悪化させる、最も大きな要因は「日韓歴史問題」にあることは明白です。慰安婦問題、徴用工問題、そして竹島問題もその一つかもしれません。

2 慰安婦問題とは

日韓歴史問題のなかでも、特に日韓両国の間で長く大きなテーマとなってきたのが慰安婦問題をどう解決するのかという問題です。


そこで私は慰安婦問題の取材を始めることにしたのです。まず、慰安婦の方に話を聞きたいと思いナヌムの家を訪れました。

正直に言うと、慰安婦問題は日本が悪いと私はずっと思っていました。

慰安婦問題は、大まかに言うと日本軍に従軍させられ性的業務に従事させられた女性たちをどう補償するかという問題です。細かい認識について議論はありますが、慰安婦が存在していたことは事実ですし、非難されてしかるべき問題だと思っています。この基本的な考えは今も変わっていません。

そしておそらくは韓国の方も私と同じ考えで慰安婦問題を捉えていた方が多かったのではないかと思います。可哀そうなハルモニ、日本はなぜ謝罪や補償をしないのかとーー。

3 元慰安婦との会話

ナヌムの家はソウル市内から約二時間くらいの郊外にあります。僕は向かう車中のなか緊張しました。慰安婦にお会いしたら、おそらく「日本人は嫌いだ!」と言われてしまうのではないか。そんな恐怖がありました。

ところが逆だったのです。私がお話した元慰安婦のかたは日本語が話せました。そしてこう語りかけてくれたのです。

「日本人には悪いこともされたが、助けてくれたのも日本人でした。慰安婦問題が日韓関係の棘の棘になってはいけない」

彼女はこう言ったのです。私はハっとさせれました。本当の被害者は対立を望んでいない、ということが分かったからです。これは大きな事実でした。


私も当初は、日本批判が韓国人の本音だと感じていました。ところが、韓国での取材を進めれば進めるほど違和感を覚えるようになりました。日韓歴史問題のもう一つのイシューとなっている徴用工問題においても同じような言葉を聞きました。徴用工問題とは大まかに言いますと、日本によって強制労働をさせられたという問題を指します。韓国ではアウシュビッツの収容所のようなイメージを持っている人も多いかと思います。でも、元徴用工の中には「受け取る給料は日本人も韓国人も同じ金額だった」「差別はなかった」と証言する人がいたのです。労働は大変だったけど、日本にはいい思い出もあると語る人が少なからずいたのです。

取材で当事者に会って体験を聞いてみると、“反日”だと思われていた韓国人のまた違った本音をたくさん聞くことが出来た。そうした言葉を多くの韓国人や日本人にも知ってもらいたい、と私は思うようになりました。

話を慰安婦問題に戻しましょう。

では誰が「日本は酷い」と言い続けているのか?

その後、様々な取材を続けました。すると問題は慰安婦支援団体と呼ばれる活動家の人たちにあることが分かりました。具体的に言いますと「正義連(旧テイタイキョウ)」の活動家の人たちが日韓関係を拗れるように仕向けているという実態が取材によりわかったのです。

この活動家の人たちは、過去に慰安婦から訴えられたこともあります。元慰安婦の方のための募金を使い込んでいるという裁判でした。僕がその実態をレポートしたのは2018年でしたが、その後にそれを裏付けるような報道が韓国内でも出るようになったのです。2020年にイヨンスさんという元慰安婦の方がユンミヒャンという元代表を告発する記者会見を開いたのです。内容は同じです。ユンミヒャンが、慰安婦の方のために募金された資金を流用していたというニュースを聞いたことがある人もいると思います。


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ソウルの日本大使館前では、デモが続く


慰安婦問題は日本にも責任があると僕は考えています。その一方で、韓国内にも慰安婦問題を利用しようと考える悪い人たちがいたことが、問題を複雑なものにしてしまったのです。活動家に影響された政治家にも問題があります。活動家や政治家が問題を拗れさせている、とうのは韓国だけではなく日本も同じです。日本にも韓国の悪口を言う活動家や政治家がたくさんいます。つまり日韓歴史問題の当事者ではない、赤の他人によって日韓関係はどんどん悪化していったのです。


4 日本側の努力

韓国の方に知って頂きたい歴史的な事実としては、日本側が問題解決の努力をしてきたこという経緯です。

1990年代に慰安婦問題を世に問い、元慰安婦ために裁判を起こしたのは日本人の方々でした。それから30年、元慰安婦のかたを支援し続けた日本人女性がいることを知る、若い世代のかたは少ないでしょう。そのかたはウスキケイコさんという方で、30年間韓国と日本を行き来して元慰安婦のかたに寄り添い、ときに薬や食事を届ける活動をして来られた方です。

日本政府も放置していた訳ではありません。

韓国内には「日本は何もしていない」との主張はありますが、日本は1995年には「アジア女性基金」(女性のためのアジア平和国民基金、2007年に解散)を創設し、寄付金と国庫から韓国をはじめアジアの慰安婦に対し補償金を支払ってきました。これには、日本首相のお詫びの手紙も同封されました。この活動は残念ながら、テイタイキョウ(現正義連)活動家により潰されてしまいます。

団体

韓国内では反日団体の影響力は強い


また2015年には日韓慰安婦合意も結ばれ、日本側が10億円を拠出して「和解・癒やし財団」が創設され、補償金が支払うことを二国間で取り決めました。しかし、この活動もテイタイキョウを始めとする活動家の反発に遭い、財団は解散に追い込まれてしまいます。

謝っても許してくれない、ということが続いたことで日本でも韓国に対する反発が産まれていきました。嫌韓というムードが出来始めたのです。

時系列をきちんとたどっていけば、日本は韓国に対し誠意を持って対応してきたと言えると僕は思っています。首相は謝罪の手紙を書き、それを見て涙を流した元慰安婦のかたもいたのです。ただ残念なのは、日本政府がそうした活動を韓国国民に向けてもっとわかりやすく、かつ心に届くような形でアピールすることが足りなかったことにあります。

 例えば、16年に当時のオバマ米大統領が広島を訪れ、被爆者とともに「世界の非核化」といったメッセージを力強く発信したように、日本政府も心に届くメッセージを発するべきだったと残念に思います。

5 韓国の戦争責任

慰安婦問題は日本人により世に問題提起されたというお話は先に致しました。同じことは韓国でも行われていることは、あまり知られていません。

韓国はベトナム戦争に参戦しています。韓国軍は、そこではベトナム人の女性や子どもを皆殺しにするような虐殺行為が行われていました。この事実は韓国人女性ジャーリストによって明らかにされたのです。

また、韓国内には米軍慰安婦という方がいます。米軍慰安婦とは米軍相手に性を搾取された女性たちのことを指します。朝鮮戦争、ベトナム戦争を通じて韓国には米軍が駐留するようになりました。その兵士に向けに女性をあてがうような行為が、韓国政府の認可のもとに行われていました。基本構造は日本軍慰安婦と同じです。こうした事実も僕は韓国のかたから教わりました。

 韓国の内外で生じたこのような問題を考えると、韓国で言う歴史認識には、二つの構造があるようです。一つは、植民地支配された日本に対する「自分たちは帝国主義や戦争の被害者だ」という意識です。もう一つは、そういった被害者意識が強くある一方で、自分たちが参加した戦争での行為に関する反省には無関心である点。戦争を起こしたのは日本だけではない。韓国もまた朝鮮戦争やベトナム戦争に参戦し、多くの民が苦しんだ歴史があるのです。韓国の政治家や知識層には、日本への対抗心が過ぎる余りか、日本叩きは率先して行うが、自国の行為には反省をしないという姿勢が見受けられます。

6 戦争が全ての厄災の原因

これは決して「韓国も戦争で酷いことをしてきたじゃないか」、ということを言いたい訳ではありません。戦争というものが、慰安婦や虐殺という悲劇を生み出してしまうものなのだということを、私たちは深く心に刻まないといけないのです。

「日本人には悪いこともされたが、助けてくれたのも日本人でした。慰安婦問題が日韓関係の棘の棘になってはいけない」

『ふりかえれば、未来が見える ~問いかける元「慰安婦」たち~』と題されたドキュメンタリーがあります。そこにこのような元慰安婦の方の言葉が収録されています。

〈戦争というのは終わってみれば結局、死と貧しさしか残さない。戦争をしてはダメだ。平和の中で暮らし、死んでゆくと考えるべきです〉

元慰安婦の方の多くは戦争によって人々が苦しむことを体験しました。だからこそ元慰安婦の方は、我々に日韓の仲が悪くなってしまえば、また「戦争」になってしまう可能性への危惧を言葉にするのです。


日韓対立が深まり戦争になれば、苦しい思いをするのは我々です。虐殺によって両親を戦争で失ってしまうかもしれないし、私たちが慰安婦にされたり、徴用工として自由を奪われるというようなことに巻き込まれてしまうということが起こりうるのです。

7 日韓で何をすべきなのか。

僕は日韓関係においては「罪を憎んで人を憎まず」という考えを多くの方に持ってもらいたいと思います。問題は問題として解決に向けて努力して欲しい。日本人が嫌い、韓国人が嫌いという考えを持って欲しくないと思います。


対二次世界大戦が終わってから70年以上が経過しました。戦争時の出来事を語れる人は年々少なくなってきています。僕はお爺さん世代の方々を取材しましたが、みなさんにとってはひいお爺さんやひいひいお爺さんの世代の方の話になるでしょう。

我々が受け継ぐべきもんは憎しみではありません。新しい世代で事実を確認し、問題を話し合い、そしてお互いに歩み寄る努力をするべきなのです。そうした努力をすることによって、はじめて未来志向の日韓関係を築くことが出来るのではないでしょうか。

そして戦争という厄災は日韓だけで起きた問題ではなく、現在もなお続く「世界の課題」だということも認識して欲しいと思います。

歴史を反省し未来をつくることは日韓両国に求められることです。平和的な関係のなか、日本人が韓国料理を楽しみkPopを聞く、韓国人が日本食やアニメを楽しめるということは素晴らしいことなのです。平和だからこそ与えられる楽しみであり、お互いを憎しみあっては、いつか戦争となり地獄の苦しみを目の当たりにすることになってしまいます。

また戦争を繰り返すことが、元慰安婦のかたがの思いを裏切ることであり、彼女たちが深く悲しむんでしまうはずです。


活動家や政治家はお互いの国の悪口を言います。メディアでもそうした伝えられ方をすることも少なくありません。それらが全てウソとは言いませんが、実際に少なくないウソが含まれています。感情的な議論なのか、事実を踏まえた議論なのかを、私たちは正確に見極めなければいけません。当事者の話を聞き、正しい資料を読み、正しい事実を知ることが大事です。

僕は韓国の人が好きです。韓国人の戦争被害者遺族のおばさんに「日本の息子だと思っているよ」と言われて、泣きそうになったこともあります。お土産にキムチを段ボール一箱分もらったこともありました。一人暮らしだったもので、あまりの量に驚きましたが(笑)。釜山でキムチ鍋を元徴用工の方々と食べました。とても美味しかったのですが、一人だけキムチ鍋を食べない元徴用工の方がいました。なぜかと聞くと、「辛い物が苦手だと」言う。韓国の人でも辛いのが嫌いな方がいるんだ、と発見でした。歴史問題というシリアスなテーマで取材をしていましたが、本当に良い思い出ばかりなのです。そのな韓国の人を僕は憎むことは出来ません。


その思いを伝えたくて本を書きました。

なぜ、お互い悪くいう必要があるのか? 喧嘩することは戦争への道ですよ? ということが僕の最も言いたいことです。みなさんのなかに、もし日本や韓国に友人がいらっしゃったら、その友情を大事にしてください。そしてその友情を大切にする心が、いつか素晴らしい日韓関係を築くパワーになるのだと、僕は思っています。

(了)

(略歴)
あかいし・しんいちろう 講談社「FRIDAY」や文藝春秋「週刊文春」記者を経て、19年にジャーナリストとして独立。日韓の歴史問題について取材を続けている。

講演



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