2022読書感想④十角館の殺人 綾辻行人
あらすじ
推理小説同好会のメンバー7名が半年前に殺人事件が起きた島へ渡り、1週間を過ごす。半年前の事件は未解決で犯人はまだ捕まっていない。無人のその島は事件の影響で電話も繋がらず、近場は漁場ではない為船もまず通らない。そしてミステリ好きな7人はその雰囲気を楽しむ為、様子を見にこようかと言ってくれた船長さんの好意を断っていた。理想的なクローズドサークルの出来上がりである。
あとはタイトルの通り。一人、そしてひとりと殺人が始まっていく。
※以下ネタバレあり。備忘録としての感想。
ミステリ界で最も有名と言ってもいいのではないかと思うこの小説。(ほぼほぼ小説読まない私でもダントツに面白いミステリとどこかで見たり聞いたりしていた)
だから読む前は正統派なお堅い文章で完読は難しいのではと思っていたが、全くそんなことはなかった。
プロローグは犯人の心情が美しい情景描写と共に描かれていた。
たった3行、何も物語は始まっていなくても描かれる文章自体がとても好きだと思った。知っている単語のはずなのに、書き手によってその組み合わせが変わるだけでとんでもなく美しく彩られる言葉の羅列が私は好きだと。知的で美しいと感じた。
でも内容を読み進めるうちに、印象はカジュアルに寄った。とても読みやすい。
章ごとに登場人物の一人称に近い書き方でとても読みやすかった。
犯人は半年前の事件で生き残った男の復讐だという説も出ていたけれどそんなこと絶対にありえないとわかっていた。十角館に訪れたこの7人の誰かだと。
でも7人それぞれの一人称の視点で描かれた内容に、一人ひとりみんなに共感してしまい、やはりこの7人以外の誰かが犯人ではないかと思わされる。
最初に疑ったのは事前に館の準備をしていたヴァンだ。もちろん閉ざされたこの環境で完全犯罪を行うには事前準備は欠かせない。1人だけその機会があり、元々その館に行く事を提案し、ツテを繋いだ彼が1番怪しかった。
が、その後私はずっと第一の被害者オルツィとポウが共犯なのではと思い込んでいた。検視をポウだけが行い、他の誰にも見せなかったことが怪しく感じられた。
だからポウが死んだ時はオルツィに裏切られたのかと思った。
江南くんがドイルと呼ばれていたことから守須くんもモーリスかなと思わせられたのも凄く上手なミスリードで、本土の話が出てきた時、本土にいる人間も考えられるか? と思ったけれども深く考察できなかった。
守須くんがヴァン・ダインと名乗ったときの衝撃。事前に彼だとわからない状態でこの衝撃を感じられてよかった。思い出すと快感にも近い興奮を覚える。これがミステリの楽しみ方かと。
「ん? え??? え???」と大きな声を出してもう一度最初の部屋の地図を見てヴァンはそこにいたよな? と確認してしまった。
プロローグとエピローグの美しさは悲しくも感じる。
これからすること、してしまったことへの葛藤とは違う、こうすることしか選べなかった諦観と疲弊し摩耗し切った心。
ヴァンは精神異常者ではない。それがどれだけ恐ろしいことか、間違った道かわかっている。
でもそれを選び、実行できてしまう心は愛情の裏側にある深い闇に落ちていた。
家族の不幸、理不尽な暴力を受けた彼が更に愛する人を失った時、涙を流すのではなく復讐に灯りを点してしまったことがひどく悲しい。
でもその悲しさを彼は理解していた。
だからあの瓶を海に流し、そして最後はそれを人に託す。誰も悪くはなかったのかもしれない。千織さんの事件についての詳細は明確に説明がなされなかった。
7人それぞれ人間らしい個性が見えて悪い人間には思えなかった。
癖はあっても、悪意を持って人を殺してしまおうなどと思わないのではないかと思わせられる。
でもミステリ小説は特に人の一面的な部分、"見せてもらえる部分"しか見せてもらえないので、その裏で実は人を殺してしまうような心情や特性がある可能性が高い。それは実際の現実と同じなのだろうかと少し怖くなる。
ああでも本当に面白かった。また読みたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?