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非日常への飛躍が鮮烈な物語

日常から非日常への飛躍が鮮やかな物語が好きだと改めて思わせてくれたのが、遠坂八重さんの『ドールハウスの惨劇』である。

物語の舞台は鎌倉にある高校で、たこ糸研究会の男子2人と、同級生の双子が主な登場人物である。
タイトルの感じからは思いもよらないくらい、前半は普通の高校生活の様子が描かれる。たこ糸研究会が実は主な活動として生徒の困りごとを解決する何でも屋をやっているというのが、なんかいい。

双子のほうは、姉は絶世の美女だが成績は悪く、妹は地味だが成績は抜群という極端な組み合わせ。読み進めるうち違和感が次々と湧いてきて、双子の誕生日という非日常にぶつかったとき、ついに惨劇が起きるという話。

いびつでありながら危うく保たれていた日常が一気に壊れてしまう様子にどきどきさせられる。がらがらと崩れた日常の先に、タイトルの意味がおぞましく浮かび上がってきて、途中で読むのをやめられない。

現代社会の問題を浮き彫りにしたとかにとどまらず、いびつな愛やねじ曲がった人の心を描いていて、他人の評価に振り回される悲しさも痛いほど、改めて感じさせられた。そして、強烈な痛々しさがあるからこそ、一瞬の安寧の時間、普通の青春みたいな瞬間がすごくきらきらして見えるのも印象的だった。

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この本は著者のデビュー作で、ボイルドエッグズ新人賞受賞作だ。ボイルドエッグズのサイトに近年の受賞者のエッセイが載っていて、それを読んで本作を買おうと思った。

「なりたい無機物ランキング」を考えているというのが素敵だ。私も生まれ変わったら何になりたいか考えたとき出てくるのは洗濯機とか、無機物が多いから勝手にシンパシー。
何より、つり革とか色々なものに感情を投影できる感性がいいなと思った。そう思ったのは間違いではなく、この作品にはたこ糸研究会などクラブ活動とかの名前が出てくるが、それらがいちいちちょっとおかしくて思わず笑ってしまう。シリアスな本筋に対してギャップ要素がバランスよく含まれているので、程よく心がほぐれる。

たこ糸研究会の2人はとても魅力的なので、シリーズ化すると聞いて嬉しい。次作を楽しみに待ちたい。

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