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「大道兄弟の部屋と未知の記憶」 大道兄弟 写真展レビュー by Euiro Kim

2024年の3月から4月にかけて、韓国ソウルで開催された大道兄弟 写真展「TIME UPON A TIME」展(2024 3/9 - 4/7)。

会場となったのは、韓国と中国の計8名の若手アーティストたちによる、アーティストコレクティブ「FF Seoul」が、鍾路区 世運商店街の一角で共同運営をする同名のギャラリー。
オープニングには日本から、大道兄弟(と赤々舎)も訪韓し、現地の鑑賞者をマッコリとDJでお迎えし、集まった人々の中には、ソウル市からKTX(韓国高速鉄道)で約2時間290kmほど離れた大邱よりいらした、若手インディペンデント・キュレーターEuiro Kim(キム・ウィロ)氏の姿もあった。
こちらは、そのウィロさんがお書きになった展評です。ぜひお読みください。(以下、本文の原文は韓国語)


大道兄弟の部屋と未知の記憶
Euiro Kim(キム・ウィロ) / インディペンデント・キュレーター


10年前、双子の兄弟である大道優輝と康輝は、イギリス旅行で購入したヴィンテ ージカメラで写真を撮り始めた。当時、見知らぬ土地で知人の家を訪ねた二人は、何の説明の言葉もないままに、 その空間に染み渡る家主たちの時間と生活を見て感じとった。
大道兄弟はこのような経験を「時間の蓄積」 という概念で説明し、それをもとに自分たちが生きてきた時間の断片を写真イメージの中に積み上げた。
人生を写真に残さなければ見ることができない、という彼らの考えは、日常の中で出会った記憶の痕跡を追って自然にカメラに写し出された。

大道兄弟 写真集『My name is My name is...』より


《TIME UPON A TIME》は、こうした10年という時間の追跡である。意図的に近づくことなく、偶然カメラに写し出された時間は、二人自身も意識していなかった記憶の痕跡を私たちに出会わせる。 大道兄弟によれば、写真画像を見るとき、その人の態度や考え方、視線は、その人の生き方を反映しているという。

このような視点を踏まえると、《TIME UPON A TIME》に向き合う観客は、写真に写された対象を通して、優輝や康輝にとっての意味とは別に、自分自身の物語を発見する。私たちは二人の時間に入り、写真に写されたコーヒーカップ、時計、街並みのような対象を通して、忘れていた自分の記憶と向き合いながら、別の時間の断片(Fragment)を見つけ出す。


大道兄弟 写真展 at FF Seoul(ソウル 韓国 2024.3)



展示場の壁一面にランダムに配置された写真イメージは、二人の兄弟が直面した記憶の断片であり、 時間を明らかにする集大成である。セルフパブリッシングした合計9冊の写真集と1冊の自伝的小説は、二人の間の時間的な繋がりを示している。大道兄弟が見たこと、感じたこと、日常で直面した記憶の痕跡をカメラに収める行為は、自分たちの人生を写真イメージに蓄積させ、写真の中の対象を通して時間を媒介させる。このような優輝と康輝の行為は、形を持たない時間を写真に残さなければ消えたも同然であるという考えに由来する。


大道兄弟 写真展 at FF Seoul(ソウル 韓国 2024.3)


5年前、午前6時4分、大道康輝は優輝と一緒に住んでいた大阪の家の居間を写真に残した。彼は毎日、 母親が亡くなった時間に部屋を記録していた。康輝がカメラを構えていた空間は、母親の不在と海軍に勤務していた優輝の空白で満たされている。当時、優輝は遠くから自分の時間と姿をカメラに残し、 写真を手紙にしてお互いに送っていた。記憶の痕跡が積み重なっていく写真イメージは、 彼らの生を物語る。二人が10年前、見知らぬイギリスの家で他人の時間を垣間見たように、《TIME UPON A TIME》は FF Seoulという見知らぬ場所で私たちを大道兄弟の記憶に誘う。


──「大道兄弟の部屋と未知の記憶」
大道兄弟 写真展  Euiro Kim 氏による評 より

展示風景 写真 :大道兄弟、FF Seoul、赤々舎



大道兄弟 写真集『My name is My name is...』はこちらから

Book Design:大道兄弟
発行:桜の花本舗 × 赤々舎
H252mm × W227mm |64 pages |Hardcover
Published in March 2024


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