『金持ちジュリエット』（ショートショートnote杯）

「ダメッ全然ダメ！　クビにして！」
　ディレクターズチェアにふんぞり返り、キンキンした声を張り上げているのはジュリエットだ。
「監督！　そうは言っても……、ジュリエット役だけでもう５人目ですよ。またオーディションからだと経費も時間も馬鹿になりま……」
　最後まで言わせることなく、ジュリエットは男にメガホンを突きつけた。
「あたしの役があんなブサイクな大根役者でいいわけないでしょ！　早く次を探してきて！」
「はい、わかりました……」
　スタジオの端の方ではADたちが声を忍ばせていた。
「今度のジュリエット役は１週間もたなかったな」
「この前のロミオ役なんてたった３日だろ。何人目だっけ？」
「たしか……８人目くらいじゃないか？　もうわかんねーよ」
「ジュリエットお嬢様が『自伝を撮りたい』と言い出した段階でこうなるのは見えてたけどな。まぁ予算はあり余ってるんだから好きにやったらいいさ」
「金持ちってのはほんとうらやましいなぁ……」

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