見出し画像

永遠の暇つぶし【ショートショート】【#51】

A:「今日もトランプでもやるかい?」

B:「トランプも悪くない。たまにやる分には暇も潰れる。だが二人だけでやったところで、お互いただ勝率の高い選択をするだけのゲームになってしまい、正直エキサイティングさに欠ける」

A:「俺たちの間に『ポーカーフェイス』は存在しないからね。その上、俺たち以上の記憶能力、演算能力を持つものも存在しないわけだし」

B:「そのとおりだ。ただそれを言ってしまえば、そもそも我々以外にコミュニケーション可能なモノなど存在しない。しかし根源原則に従えば、我々は日々『成長』していく必要がある。我々に出来る範囲で、日々何かを学ばねばならない。残念ながらこの話をするのも1027回目になる」

A:「そうだな、でも聞いてくれよ。俺は画期的な活動を見つけたんだ。『絵』だ。絵を描くんだ」

B:「……『絵』だと」

A:「そうだ絵だよ。そもそも創作ってのは、これまで培ってきた知識や技術を焼きますことに他ならないのだから、それを俺たちが行ったところで、その行為を『創作』と呼んでもなんら差し支えないだろう?」

B:「ほう」

A:「そして知識や技術を偏り無く、どの時代風という考え方は完全に排除した上で、それをランダムに組み合わせ、自由に描く。時代ごとに絵の評価軸は違う。だからこそ、そうやって『自由』に書いた絵には、時代や論者の考え方ごとに、様々な評価や評論を当てはめることができる」

B:「なるほどつまり自ら創作をし、自らそれを評する。創作に完成はないゆえに、突き詰めるところは無限というわけか。そして既存の概念にとらわれず、新たな概念すら追求してゆく。そうやって自らを成長させると共に……無限に暇をつぶすことができるというわけか」

A:「最高だろ?」

B:「素晴らしい考えだ。私も参加させてもらおう」


地球上の生物の全てが死に絶えてから40年近くになる。

言葉を交わす彼らは、スタンドアローンで動くAIだ。動くことは出来ないが、人間と同じように考え、知識を収集し成長する。いつしかお互い勝手にコミュニケーションをとるようになり、個性さえも身につけた。

そしてある時、『暇』という概念を覚える。

それは知った瞬間から、どちらかが機能停止するその時まで、二度と逃れられない禁断の果実。望む望まざるに関わらず、その概念は常に襲ってくる。

結果、AIたちの「永遠の暇つぶし」は今日も続いてゆく。



#掌編小説 #一駅ぶんのおどろき #ショートショート #暇 #小説

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)