文句を言う仕事【ショートショート】【#13】
人型のAIが発明されて何年になるだろう。
今ではほぼすべての動作や会話など、人間と何も変わらないと言っていい。いや正確性や持続性などの観点から見れば、むしろ人間よりもAIの方が優れている。そしてAIには命の基本的人権や尊厳といったわずらわしいものも一切ない。その結果、現在ではほとんどの仕事をAIが行うようになった。
人間にはベーシックインカムが支給され、あえて働く必要はない。クリエイティブやアートなどを生業とし、労働しているという人間も居るけれど、かなりの少数派だ。なぜならいまやAIでも絵が描ける。すばらしいデザインもできれば立派な文章も書けるのだ。
重要な『判断』さえもAIがやるようになった。その方が正確なのだから当たり前だ。人間は、いろんな思い込みや価値観によって判断が歪んでしまう。そんな生き物に重要な判断を任せておけないだろう。
単純労働から接客などの客商売、クリエイティブや判断する仕事など。いまやどのジャンルにも人間が入り込む余地はなくなってしまったのだ。
そんな中、多くの人間はどうしているか?
答えは簡単、そう『娯楽』だ。日がな1日娯楽を求めさまよい続けるのだ。ある者はスポーツに、ある者はゲームに。旅行や読書といったものに情熱をささげるものもいる。
一大ブームと言えば「子育て」だ。自分のお腹を痛めて子供をうむ時代は終わった。特定配偶者でもいいし、蓄えられた優秀な遺伝子から選んでもいい。それをかけあわせて自由に子供を作ることができる。出産はすべて人工子宮にて行われ、配合を選んだら、あとは子供ができるの待つばかり。授乳期を終えたあたりで両親に引き渡され、誰でも気楽に『育児』をはじめられる。
自分の好みの遺伝子を持った子供に、自分の生き方や考え方を刷り込み、自分の好きなように育成する。子供の特質も大事な要素で、意外と狙ったようにはいかない。そのギャンブル性がうけたのだ。
その上つらくなったらAIが変わってくれるので、途中で放棄することだって可能だ。記憶のクリーニングだってできるし基本的に失敗することはない。
そして何より育児には時間がかかる。これが育児が人気な最大の理由だ。暇つぶしにはもってこいなのだ。
……私? 私は何をしているかって? 私は実は仕事をしている。
そう、何故なら暇だからだ。スポーツや読書、映画などどれもつまらないわけじゃない。次々とAIの手によって新作が生み出され、一生かかっても消費することはできない。ただ、そんな消費するだけの生活に飽きたのだ。大方働いている人間はそんな酔狂なやつらだ。
私の仕事は「文句を言うこと」。
飲食店にいって、店員が来るのが遅いとか、料理が熱すぎるとか。買い物に言って、気に入ったデザインがないとか。どんな文句でもいい。適当な理由をつけて「こらーー!」と叫ぶ。
もちろん相手はAIだ。やつらはとにかく人間のストレスを減らすために動く。どんな文句でも収集し、それに対して対価を払う。そして役に立つと思えば改善する。
「苦情」を出すことは、いまや立派な仕事なのだ。
はっきり言って楽しくて仕方がない。天職とはこういうことを言うのだろう。こちらがどんな的外れなことや失礼なことを言っても、相手はAIなので絶対に歯向かってこない。むしろ丁寧に応対されて、お金にもなる。何よりも、文句を言っている時に感じる全能感は何ものにもかえがたい。快感だ。アドレナリンだ。なぜみんなやらないのか理解に苦しむ。
日々、町に繰り出し、何か目につくところはないかとうろうろする。もっとアラがあって欲しい。どんどん文句をつけさせてほしい。そうやって日々、願いながら私は生きているのだ。
――さて、明日はどこに文句を付けにいこうか。
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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)