2022年に面白かった『映画』にかんする与太話

「ねぇ。どうせまた去年も映画ばっかり見てたんでしょ?」
「そんなことないってば。1日1本も見てないし。いまだにアカデミー会員のつま先にも及んでない」
「いや基準おかしいから。そんな人たち引き合いに出されても騙されません。――それで?結局、何本見たの?去年。言ってみなさいよ」
「だいたいしか、わかんないけど……」
「うんうん、だいたいでいいよ」
「250本くらい」
「ヒマか」
「ヒドイな……ただのしがない映画好きの学生なのに」
「ほとんど毎日じゃん」
「いやだから毎日は見てないって……」
「ひくわ~。それでちゃんと学生やってるのにひくわ~」
「そっちから聞いといてそんな仕打ちある?」
「いやごめん違うの。本数はまあいいの。どうせ沢山見てるんだろうし、せっかくだから面白かった映画教えてほしいなって。それだけの話」
「だったら最初からそう言ってよ」
「ごめんごめん。あまりにも予想通りだったから罵倒しちゃった」
「ちょっとは包み隠すということを知ったほうがいいよ」
「ま、いいでしょ。――で、それでさ面白かった映画教えてよ。今度見るから」
「わたし、新作はあんまり見てないけど大丈夫?」
「むしろサブスクとかに入ってる可能性高い気がするし、いいんじゃない」
「そう。新旧問わず色々見たから――、『桐島、部活やめるってよ』とか『台風クラブ』とかも面白かったけど。そうね……去年はでも、なんといってもヴァーホーヴェンの年だったかしら」
「バーフォーベン?」
「ポール・ヴァーホーヴェン。オランダの監督で80年から90年くらいの時期に人気作を連発してて……。ほらちょっと前に『トータル・リコール』っていう映画もリメイクされたりしてて、――聞いたことない?」
「うーん?わかんないかも……」
「まあいいや。その監督の超人気作だった大作映画に『ロボコップ』とか『スターシップトゥルーパーズ』とか、今、出てきた『トータル・リコール』とかあって、そのへんをまとめて見たんだけど、これがもうどれも最高だったの」
「あ、『ロボコップ』っていうの知ってる。ロボのやつでしょ」
「それはタイトルから誰でもわかりそうなもんだけど。まあでもそう。元警察官が瀕死の重傷を負って、ロボット警官としてよみがえって悪を退治する話ね。監督の作品にどれも共通する魅力なんだけど、卓越した特殊効果と、ちょっとしたエグみがとにかく素敵なの。気持ち悪いクリーチャーとか、気を抜くとだいたい誰かが何気なく血まみれになったりするのがいいのよ」
「なにそれ、キモいんですけど……」
「だってそれが売りだから」
「ごめん、それはちょっとわたし的にチガウ気がするから他の教えてよ」
「いい作品なのにな。わかった。じゃ、そもそもどんな映画がいいの?それ教えてくれらたら見たやつのなかから面白かったやつ考えるから」
「ああそういうのいいじゃん。じゃあさやっぱり映画といえば、ハリウッドでしょ!バーン!ドーンみたいな派手なやつ!そういうののオススメはないの」
「あーいるいる。オランダの監督でね……」
「ふむふむ」
「ポール・ヴァーホーベンっていう……」
「はいストップ。それ今さっき聞いたばっかりだから!わかるでしょ!」
「バーン!ドーン!で派手なやつなのに」
「はやく次いって!」
「悲しいなぁ。それじゃフランスの4大映画ってのがあって……」
「おっ!いいじゃない。そういうの気になるよ。しかもオシャレの町フランス!そういうの待ってました!」
「わたしが去年見たのはそのうちの2つなんだけど、『ハイテンション』っていうのと『屋敷女』っていうのがどちらもとっても面白かったよ」
「へぇそれなにどんな映画なの。ていうか『屋敷女』ってへんなタイトル」
「評価されてるだけあってとってもいい映画なのよ。出産を間近にひかえた妊婦さんがいる家に黒づくめの女が訪ねてきてね……。その女がお母さんとか来てくれた警察官とかをぶっ殺して、妊婦さんを恐怖のどん底に叩きおとすの」
「ちょっと待て」
「なに?」
「いやそれなに?ジャンルは?」
「スプラッタホラーだけど?これがもう部屋中血だらけで、出てくる人がつぎつぎ血祭りにあげられるし、あげくに最後は……」
「はい終わり!わたし嫌いなの!怖いのも痛いのも血みどろも問題外!」
「えーさっきちゃんと説明したのに。『フランス4大スプラッタ映画』だって」
「言ってない!絶対言ってないから!」
「『ハイテンション』もすっごく素敵なのになぁ。あっちはシナリオも凝っててビックリするし、スプラッタ描写もまた巧みで……」
「それ以上続けたら帰るから」
「はいはいわかりました。おとなしく普通の映画を紹介します」
「わかってくれればいいけど……」
「そしたら……う~ん、邦画はどう?ほらアカデミー賞とった『ドライブ・マイ・カー』なんて素敵だったよ」
「ああなんだっけ、西島……なんとかって人の出てたやつでしょ?」
「西島秀俊ね。村上春樹の短編が原作なんだけど、映画も村上春樹の原作にあるところは、すごく村上春樹って感じがしてていいの」
「なにそれ、小説が原作なんでしょ?」
「そうだけどとっても短い短編がもとになっているから、他の短編にあった一節があわさってたりもするし、映画のオリジナルの部分もあるわけ。で、そういうオリジナル部分はちゃんと村上春樹なんだけど、それ以外はあんまり村上春樹っぽくない。まあ当たり前といえば当り前か」
「なんかそれだけ聞くと面白くなかった、みたいに聞こえるんだけど……?」
「いやそんなことないよ。わたしは村上春樹が嫌いじゃないっていうのもあるかもしれないけど、ちゃんと面白かったよ。セリフがずっと棒読みみたいで、車の音がずっと後ろで鳴ってて、これがやかましくてイライラするの。それが良かった」
「う~ん。もしかしてあなた映画の紹介へたなんじゃないの?」
「どうして?」
「いや、まあいいや。なんかピントこないし他!他のやつにして!もっとわかりやすい、単純な映画がいい」
「単純ねぇ……。そうね、『死霊の盆踊り』っていう映画がとってもつまらなかったかな」
「ちょっと!つまんなかった映画は聞いてないんだけど」
「『アメリカ最低の映画監督』って言われてる人が脚本書いてて、その名に恥じない駄作っぷりが最高に最低だったの」
「それを聞くとちょっと気になるけど。いや……でもつまんないんでしょ?」
「超つまんない。墓場で半裸のおねぇちゃんたちがただぬらぬらと踊ってるのを見せられるだけの一時間半。最高」
「どっちよ!――ま、いいや、わたしが見ることはまあないだろうし。ていうかどうして面白かった映画聞きたいだけなのに、こんなに横道にそれるのよ……」
「単純だし、そういうの好きかなって」
「ぜんぜん好きじゃないし!普通でいいの!少年少女がバンド始めるみたいなそういう普通の青春映画みたいなやつは見てないの?」
「あーあるある。その名もそのまま『音楽』っていう映画すごく良かったよ」
「おっいいじゃん。それはどんなやつ?」
「アニメ映画なんだけどね。不良少年たちがバンドを組む話なの。主役の声をね、有名なロックバンドのヴォーカルの人がやってて、これがまた誰とも相いれない無骨な感じでいいのよ」
「おっいい感じいい感じ。それでそれで?」
「バンドって言ってもベース2人と太鼓っていう変わった編成だし、町内のお祭りにバンドで出るんだけど、そこでやるのがほぼノイズミュージックで最高なの」
「は?なに?……ノイズ?ミュージック?」
「一聴すると騒音にしか聞こえないような音楽のことね」
「それは……その、楽しいの?」
「めちゃくちゃ心ゆさぶられる」
「はぁ……じゃそのノイズミュージックで有名なバンドだとどんなバンドがいるの?」
「わたしも詳しくはないけど『非常階段』とかは聞いたことあるよ」
「Mステとか出てんの?」
「出てない」
「じゃその、――ロックフェスとか?」
「あなたが知ってるようなフェスには出ていない」
「まって。その人たち売れてるの?」
「売れてない」
「ダメじゃん」
「ダメではなくて、マイノリティなだけだから。ジャンルはあれだけど『音楽』はほんとにいい映画だったから……」
「そうなんだ……う~んわかった、一応覚えとくけど、もうちょっとなんていうかこうPOPなものないの?わたしとくに映画好きでもない普通のJKなんだけど?」
「じゃあこれは珍しく新作で、わたし泣いちゃった映画あるんだけど……」
「おっ!鉄仮面と呼ばれたあんたが泣くなんて珍しいじゃん!」
「初めて聞いたけど」
「面と向かって鉄仮面に鉄仮面というひとはいないでしょ」
「それは……そうかもしれないけど」
「で?なんて映画なの?有名?」
「結構話題になってはいたけどね、『THE FIRST SLAM DUNK』」
「あースラムダンクね!あれでしょ?声優が変わってどうとか言われてたヤツでしょ!面白いんだ!」
「号泣した。最高だった」
「うそっ。えっ……でもあれなんでしょ?バスケの映画なんでしょ?」
「そう。基本的には原作マンガ『スラムダンク』の一番最後で、最高と称される山王工業との試合をメインで描いていて、そこに主人公の所属している湘北高校のポイントガード宮城リョータの過去のエピソードが挿入されている感じ」
「バスケ別に好きじゃないよね?」
「うん。別にバスケは好きじゃない。けど3Dで描かれたキャラの動きが迫力満点で、試合ももちろん紆余曲折あって、原作でも最高だった終盤の流れはもう本当に言葉にならないくらい素晴らしかった」
「あるじゃん!そういう映画!そういうの教えてくれないと!」
「ただ――」
「ただ――?」
「スラムダンク……、読んだことある?」
「ない」
「だよねー。原作のスラムダンクを読んだことのないひとにはちょっとツライと思う。なにせキャラの紹介とかまったくないし、急に坊主に髪の毛が生えたりするし。仕方ないけど、この人なんなのみたいな人がいっぱいいるから」
「それじゃ意味わかんないじゃん」
「そうなの。『THE FIRST SLAM DUNK』はいい作品だったと思うけれど、せめて原作を読んでからにしてほしくて」
「そうかーそれじゃ仕方ないかな」
「あと、これも去年見たなかではとても面白かったんだけどね、『アベンジャーズ/エンドゲーム』っていう映画」
「あー知ってる!あのスパイダーマンとかが出てるアメリカのやつでしょ!」
「アメリカのやつ……うんまあそのアメコミが原作のやつね。それにエンドゲームの段階ではまだスパイダーマンは出てこないけど。ま、とにかくアイアンマンから始まるMCU……マーベル・シネマティック・ユニバースと呼ばれる映画群の作品で、一応、一回決着がついたのがこのエンドゲームね。とはいってもそのあとも続いているし、そこで終わったわけじゃないけど。とにかくこれもとっても面白かった」
「よくテレビで宣伝してるよね。そういうわかりやすいやつがいいっていってるじゃん。もったいぶらずに早く教えてよ!」
「ただ――」
「ただ――!?」
「これはやっぱり、そのMCU作品を最初から順番に見ないとほんとうの意味で楽しむことは出来ないから」
「あ、そうなんだ。でもその分たくさん楽しめるってことでしょ?いくつあるの?2個とか?3個とか?」
「エンドゲームまでで……21」
「は?」
「その後続いている公開作品が19」
「……はぁ!?」
「映画じゃないものもあるけれど」
「無理!!絶対無理だから!よっぽど暇な学生とかでもない限り絶対無理だから!」
「わたし普通に見たよ」
「あんたはその"よっぽど暇な学生"よ!」
「そうなのか」
「そうよっ!」
「そうかー……」
「そんなちっとも知らなかった、みたいな顔してもダメだから。ていうかこのやり取りたぶん毎年やってるし!」
「少なくとも去年とおととしはやったね。ループしてる。『パームスプリング』みたい」
「――それも映画?面白いの?」
「うん、面白かったよ。朝起きたときから寝るまでの1日から逃れれられなくなっちゃう話なの。その日はどういう感じで過ごしてもいいんだけど、寝たらまたその日の朝に逆戻りしちゃうの」
「へー楽しそうじゃん」
「最初はひとりっきりなんだけど、途中からヒロインも合流して、時間がまきもどっちゃうことをいいことに思う存分好き勝手やるの」
「えー!楽しそう!」
「あれだけはっちゃけられるとこっちも引っ張られるというか、爽快感あるかな。まあ途中で命を狙うおじさんとかも出てきちゃうから、何度も殺されたりもするんだけど」
「ちょっと、まさかこれも……スプラッタなの?」
「ううん。しいて言えばラブコメ?」
「良かったー」
「じゃあこれ今度探してみるね!いやーよかった。普通の映画もちゃんと見てるんじゃない。血まみれの映画ばかり出てきたときは、ここまでの5000字くらい無駄にしたかと思ってあせったわ~」
「まあ『パームスプリング』面白かったから見てみたらいいよ。――でも、せっかくだからもう一つだけオススメさせてもらっていい?」
「血まみれになったりしない?」
「しない」
「じゃあ教えて」
「『サンゲリア』っていう映画があってね」
「ほうほう」
「ゾンビ映画なんだけど、このゾンビがちゃんと腐ってる感じ満載でウジとか虫とかがたかっていて、いかにもわたし腐ってます!って造形で最高なの。この特殊効果やった人はジノ・デ・ロッシっていう有名な特殊効果の人で……」
「あんたには二度と映画は聞かないから!」



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