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異世界ものの流儀【ショートショート】【#52】

「……それで?俺は結局、何の能力者なの?」

まだあどけなさを残した少年は、相手に問いかけた。
座っているのは、市役所の応対口といった雰囲気で、簡素で味気ない。向こう側に座るのは、冴えないスーツを着た男。ご丁寧にも両手には黒いアームカバーまでしており、その雰囲気が一層市役所感を際立たせていた。

「いや、だってそうでしょ?トラックに跳ねられたかと思った次の瞬間にこんなところに居るんだから。目を覚ましたら病院でした~とかならわかるよ? 目を覚ましたら市役所でした~じゃあさすがに変でしょ? で、俺わかっちゃったわけ。あ、これ知ってる……『なろう』で見た、ってね」

少年は自分の置かれている状況に興奮しているようだった。

「おっさん『なろう』って知ってる? 『小説家になろう』って小説の投稿サイトで『異世界もの』がとにかく流行っててさ。トラックとかに跳ねられたと思ったら、実は異世界から呼び出されてて、すげえ強い能力とか最初っから備わっててさ。あげくに回りに可愛い子ばっかり集まってくるの」

向かいに座る男は、なにか反論するわけでもなく、相槌を打つでもなく、薄い笑みを浮かべながらただ話を聞いていた。

「高校はちっとも楽しくないし、アニメもゲームも飽きてたし、もういいやって思ってデカいトラックの前に飛び込んだわけ。そうしたらどうよ。目を開けたら、どっからどうみても市役所。これ完全にフラグでしょ。これから出てくるんでしょ? 俺のこと召喚した可愛い女魔術師とか、巨乳の女戦士とかさあ。いやホントもっと早くやれば良かったよ」

向かいの男は、ひとしきり話を聞いて満足したのだろうか。
ゆっくりと席を立ち、少年に奥に入るよう促した。

いよいよ召喚主とのご対面か。

興奮が最高潮に達したとき、示されたのはしょぼくれた一枚のドアだった。コンビニの休憩室のドアだってもっと小ぎれいだろう。そんな汚いドアには真ん中に小さく、『地獄』と書かれたプレートが貼ってあった。

「いやいや地獄って……またまた冗談きついよね」

調子に乗った少年は勢いそのままにドアノブをつかんで引き開ける。

広がっていた光景は吹き出るマグマ。やせ細り逃げ惑う人々。針の山にミミズの池。そして人々を追い詰める巨大な鬼たち。捕まった順にもてあそばれ、頭から食いちぎられているものもいた。迫りくる炎から逃げこんだ先は、息ができない土中地獄。思いつく限りの『苦痛』がそこにある。それはまさに『地獄絵図』そのものだった。

慌ててドアを閉め引き返そうとした俺に、薄く笑ったままの男が立ちふさがる。

「あなたの行き先はそちらですから……」

男の頭部には、さっきまではなかったはずの二本の角が見えた。


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