多機能まな板『なんでもでき板』【ショートショート】【＃167】

「では本日の目玉商品を紹介いたしましょう！　はいこちら多機能まな板『なんでもでき板』です。愛称は『デキータくん』です！」
「わぁ！　なんだかおしゃれなまな板ですね！」
「ええそうなんですよ。赤青黄緑白黒で全６色の展開になっていますので、お好みで好きなカラーをお選びいただけます」
「でも、もちろんそれだけじゃないんですよね？」
「ええその通り。このまな板ですが、なんと……メモ帳になります！　指でも書けますし付属のタッチペンを使ってOK。料理しているときに、ちょっとメモしておきたい、そう思ったときにメモ帳を探すのは億劫ですよね。手も洗わなきゃいけません。そんなときにこの『デキータくん』なら、包丁を持ちながら、その小指でちょちょいっとメモをすることができるんです！」
「わーなんて便利なんでしょう！　これで突然思いついたこととかを忘れなくて済みますね」
「まったくその通り！　しかし、もちろんこれだけではありません。『デキータくん』は温度や重さを測ることができるんです！」
「なんてこと！　切ったものの重さがそのままわかるんですね！　これでもうはかりいらずね！」
「その通りだよマイスゥィートハニー！」
「急にキャラが変わったわね！　愛してるわダーリン！」
「おっと見せつけてしまったかな、失敬失敬。プレゼンに戻るよ！　ハニーの次にカワイイ『デキータくん』ではね、なんと音楽が聴けるんだよ！」
「あらやだ。単調でいろどりのないキッチンが、一瞬でクラブハウスに早変わりね！」
「そうさ！　それに――なんと……写真も撮れるんだ！」
「アメイジング！　これで切った食材を写真に収めたいインスタグラマーのハートもがっちりね！　もちろん下からしか撮れないけどね」
「ハニー、普段見られない角度にこそ魅力が詰まっているものだよ」
「まぁ素敵！　あなたみたいね！」
「ありがとうハニー！　きみも負けてないよ！　そして極めつけはこれさ！　さあハニーこのボタンを押してごらん」
「まあなにが起こるのかしら！？　――マイゴッド！　『デキータくん』がスクリーンに早変わりしたわ！」
「そうなんだ！　『デキータくん』はスクリーンになるんだ！　テレビも映画も見放題！　なんなら料理動画を見ながら、今日の料理をするなんて最先端だと思わないかいハニー？」
「エクセレントよダーリン！　素晴らしいわ！　スタンディングオベーションの大津波よ！」
「いやー照れるなぁ。……ま、本当にすごいのは僕じゃなくて『デキータくん』だけどね」
「でもダーリン……」
「なんだいハニー？」
「これって、つまり、その、――タブレットでいいんじゃないの？」
「馬鹿を言っちゃいけないよ！　なんたって『デキータくん』にはタブレットなんて目じゃない、とっておきの機能が付いているんだからね」
「えーそうなの！？　はやく教えて！　知りたいわ！」
「そ、れ、は、ね！　なんと――『デキータくん』は、まな板にもなるんだよ！　すごいだろ！　聞いたことないだろう？　タブレットなんかには絶対に真似できない画期的な機能だよ！」
「すごいわダーリン！　これで今日からの料理は完璧よ！」
「ありがとう！　楽しみにしているよ！　みなさんも売り切れ必至のこの『デキータくん』で、愛も栄養も独り占めだ！　メニューは精力のつくものがいいな。今日は寝かさないよハニー」
「やーんダーリンたらー」
「はっはっはっはっ……」

#ショートショート #通販 #まな板 #タブレット #小説 #掌編小説 #料理 #むしゃくしゃしてやった後悔はしている