藤本タツキ先生の『ルックバック』にやられた月曜日。
『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』で知られる藤本タツキ先生の読み切りが『ルックバック』が本日2021年7月19日に「ジャンプ+」にて配信されました。
トレンドにも入っているしすでに多くの人が目にされたかと思います。まだ読んでいない方は、一度読んでみてください。
小難しいことを書こうとは思っていなくて、思いあたったこと、思い浮かんだことを、ただ書いておこうといういい加減なものですので、そのつもりでお願いします。読んでもらう前提なのでネタバレには配慮いたしません。
そもそも「ダメージが大きいから読むな」という声も聞かれました。
理由はいまだにその傷がいえていない人もいるから。京都アニメーションの放火事件が起きたのは、まだたった2年前のことです。
本作では、事件に直接的にはふれていないものの、いわれのない理不尽な事件で大切な人をなくす悲しみ、喪失感などを描いています。
また、タイトル『ルックバック』の1ページ目に見きれている「Don't」の文字。そして最後のコマに見られる「In Anger」の文字。続けるとイギリスの有名ロックバンドOasisの「Don't Look Back In Anger」という曲が想起されます。
もともとの曲には、そこまで大層な意味はなかったでしょうけれど、”怒りとともに振り返ってはいけない”と、高らかに訴えるこの曲は、いつしかテロ事件の犠牲者を追悼する場面で歌われるようになりました。
そんな鎮魂歌の意味を持つ言葉の入った作品を、このタイミングでの公開すること。
直接的な言及はないものの、放火事件に対する思いをこめた読み切りであるというのは間違いはないのでしょう。だからこそ事件のダメージをまだまだ感じてる人にとってはつらい作品で、読まない方が良いという声にも納得がいきます。
そんな鎮魂マンガである本作は、藤本タツキ先生の自伝的な描かれ方をしています。
作中に出てくる主人公が書いたマンガのタイトルは『シャークキック』。
サメの頭でシャツを着た男が暴れまわっています。タイトルは『ファイアパンチ』『チェンソーマン』の両方を彷彿とさせ、中身は『チェンソーマン』というところでしょうか。
出てくる文具屋は先生の出身地にある文具店がモデルでしょうし、大学も先生の出身美大で間違いないでしょう。子供のころから4コママンガを描いていたのは自分自身なのでしょう。
はたしてどこまでが創作でどこまでがリアルかわからないなかで、描かれる大切な人との別れ。
すべて創作だと思えばこそ、どんなつらいことでも他人事だと思って楽しんで読めるのです。それは現実の話なのではないか、と思わされてしまった日には、平静をよそおってただ楽しんでなどいられないのです。
実際に藤本タツキ先生に京都アニメーションに友人がいたのかはわかりませんが、事件に大きなショックを受け、膨大な喪失感を感じたことはこの作品から伝わってきます。
しかし作品はそれだけでは終わりません。
わたしのせいで友人を死においやったのではないか。そんな後悔を抱えたまま、彼女は書き続けるのですから。
過去を後悔することなど意味のないことかもしれません。どんな選択肢を選んでいたところで、結局は同じだったのかもしれません。ひとりの人間が生きているだけで、かならず誰か周りの人に影響を与えます。多かれ少なかれかならず影響はあるものです。だからこそ、そこに後悔も生まれるのです。
事件の犯人を恨む気持ちや、自らをせめる気持ち。
そんなものを内包しながらも彼女はただ書き続ける。友人とふたりでひとりだったころのペンネームを使い続けながら。
もしかしたらそれは単に目を背けているだけなのかもしれません。でも”怒りとともに振り返ってはいけない”そんな思いを杖のようにして、ひたすら前に進もうとしている姿なのかもしれません。
なにが正しいということはないでしょう。
でも、ジャンプというマンガの中心地で活躍する人気漫画家の圧倒的な描写力によって、ひとつの喪失のストーリーとそれに対する「生き様」が描かれていること。それがこの作品がこれほどまでに多くの人の心に刺さった所以なのではないでしょうか。
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