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盆栽師 平岩勝臣【ショートショート】【#46】

「今日はテレビでも引っ張りだこの著名盆栽師、平岩勝臣(ひらいわ かつおみ)さんが、新たな試みの展示を行うということで、その展示会に来ております」

女性レポーターはすでに興奮している様子で、鼻息荒く自分の状況を伝えた。

「そしてお忙しい中、今回、平岩先生にインタビューすることができました。先生どうぞよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

横に映った男は40代くらい。髪の毛を頭の上で結んでおり、藍色の作務衣をまとっていた。『盆栽師』という古風な肩書のわりには、かなり若い印象の男だった。

「まず簡単に先生のプロフィールを説明させていただきます。長崎県出身で、大阪の大学に在学中、訪れた奈良県の東現寺・喜多方庭園に感銘を受け、栃木県にある鈴木盆栽園の門を叩き弟子入り。その後、修行を積み、国内外を問わず、デモンストレーションやパフォーマンスを行い、盆栽を通じて積極的に国際的な文化交流を行ってきました。その功績が認められて、昨年には日本文化貢献賞も受賞。今一番乗りに乗っている、新進気鋭の盆栽師です」

「ありがとうございます」

「早速ですが、今度の展示ですが、かなり今までとは趣向の違ったものかと思われますが、どのようなコンセプトなのでしょうか?」

「そうですね。私は、これまでも培ってきた技術などを生かして、常に違う表現を求めていました。それが今回はこういう形になったということです。ただし勘違いしてほしくないのは、根底にあるものは常に同じである、ということです。盆栽は『育てる』もの。日々その状態を見極め、理想形を思い描き、必要があれば処置を行う。しかしそれは盆栽自身が強く、濃密に育つ、その手助けをしているに過ぎないのです」

さすがに盆栽について語らせたら熱くなるのは仕事ならではなのだろう。身振りなどもついてきて、途中からレポーターは少し圧倒されているようだった。

「今回の展示も同じです。大きさや枝ぶりは、それぞれ一つとして同じものはない。手塩をかけ、尊敬を持って、魂を込めて『育つ様』を助けること。そうやって育ったものはどれも尊く、それこそが盆栽の醍醐味である、と私は考えています」

「あー……なるほど。つまり手塩にかけて『育てる』ものには魂がこもり、その対象物にはこだわらない、ということでしょうか。盆栽でなくても良い、と」

「そういうことになります」

「わかりました。では最後に先生の方から今回の展示のタイトルについて発表していただきましょう。先生、よろしくお願いします!」

「タイトルは『ボディービルダーの鉢植え』です。皆様もぜひ見に来て下さい」



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