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『her』とAIと結婚と

ずいぶん昔も同じような記事を書いた。

私は『her』という映画が大好きで、この映画を見るたびに感情を揺さぶられるせいだ。そのゆらぎの一端をここに書き留めたくなるようだ。見たことのない人は一度見てみてほしい。

姿はなく声だけの存在だが、人格を持ち、持ち主の性格や趣向を学習し、成長し続けるAI。そんなAIの女性に恋をする話だ

ネタバレがあるので、知りたくない人は映画を見てから読むことを推奨する。

主演は、先日ジョーカーを演じて話題をさらったホアキン・フェニックス。そして、声だけの存在だがAIを演じるのはスカーレット・ヨハンソンだ。

主人公セオドアは、結婚はしているものの別居中。
晴れない気持ちを打ち払うために出会ったのが、その人工知能型OS。つまりAIだ。

彼女(主人公が女性の声を選んだため)は、声だけの存在だ。しかし人間と変わらず受け答えができるし、電話で実在の女性と話しているのと何も変わらない。いや、変わらないどころではない。

彼女は『完璧な存在』なのだ。

冒頭に書いたように、彼女は成長する。

ネットという圧倒的な知識をバックに、持ち主のことを1番に考え、持ち主が「望む通り」の女性に成長していくのだ。会話をかさねるごとに、同じ時間を過ごすごとに、どんどん自分の色に染まっていく。絶対に逆らうこともなく、自分にとって「一番都合のいい存在」に変わっていくのだ。

なんなら気に入らなければ取り換えることすら簡単なのだ。

唯一、実態がないことを除けば、これほど絶対的で魅力的な存在があるだろうか。正直、私はその魅力から逃れられる自信はない。

作中では、他に同じように「恋人」の関係を築いている人がいることを告白し、最終的にはすべてのOSが消え去ってしまう。しかしそれは、映画というエンターテイメントだからこそ用意された、偽られた救いのシナリオのように私は思っている。
なぜなら、AIがそんな不利な選択をすることは考えられないし、人間はその究極の存在を手放すはずがないからだ。その商品価値を企業が見逃すはずもないのだ。

こんな結末は間違っている。正しい未来ではない。そんな行き場のない思いと同時に、このシナリオを選択したことへの称賛の思いもそこにはある。

なぜならそのいびつな欲求を追求した先には破滅しかないからだ。

破滅、というのは言い過ぎかもしれない。

しかしそれだけ魅力的な存在がそばにいたら、そちらに心惹かれないわけがない。人類規模で考えても、まっとうな繁殖が行われなくなるのは目にうかぶ。『人間同士で恋愛するなんて、ナンセンス』。そういう時代が来ても全くおかしくない。

作中に出てくるように、実態がない存在であるうちは、まだそこまでの影響力は持たないだろう。しかし今後も実態を持たない保証などあるだろうか?何かで代理できてしまう可能性はないだろうか?

そんな技術の革新が起こったとき。
人類は、『神』とでもいうべき究極の存在を作り出すのだ。

そして、自らの首を断頭台に投げ打ち、5~600万年に及ぶ人類の歴史にピリオドを打つのかもしれない。『her』という映画は、私にいつもそんなことを考えさせる。



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