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「終末、どこ行く?」【ショートショート】【#130】

「終末、どこ行く?」

 聞かれると意外と答えにこまる質問だな。私はケータイを片手に頭をめぐらせる。

 私にだって行きたい場所は沢山ある。今度の長いおやすみの時には温泉に行こうと話していたし、念願のヨーロッパ旅行にだって行きたい。どちらも暇になったら行こうね、と初めて言い出してから、すでに1年以上過ぎてしまった。
 きっと誰にだってそういう「一度は行きたいと思っていた場所」はあるだろうから、人生の締めとしてそういう場所におもむく人は多いだろう。人気の場所は、人が集まりすぎてイモ洗いのようになっているのが目にうかぶ。これを逃したら世界が終わってしまうのだから、単なる繁忙期の比じゃないのは間違いない。

 しかし終末にそういう観光地自体がやっているのか、という問題だってある。何せ観光地の人だって同じ終末をむかえる人類の一員だ。彼らにだって行きたい場所があるはずだ。最後の最後まで自分の仕事をまっとうしたい、という奇特な人もいるとは思うけれど、私だったらまっぴらごめんだ。
 だからきっと「どこかの行楽地に行く」っていうのは現実的じゃない気がする。寂しいけれどきっとこれが現実だ。夢のない話だなぁ。

 結局、家にこもって「愛するあなたと2人っきり。この世が滅ぶのを静かに待つの……」みたいなやつがベストな選択肢なんだろう。でもこれにはひとつ大きな問題がある。そう、『愛するあなた』がいない人にはどうにもならないという高い壁だ。
 終末近辺まで独り身の人にしてみれば、この土壇場で逆転ホームランがでるなんて考えづらいし、家で1人寂しくカップ麺でもすすっている間にしずしずと世界が終っていくが関の山…………って、まぁその、あれです。つまりそれは私みたいな人のことなんですけどね。どうせ彼氏なんてものには数年単位で縁がありませんよ。彼氏どころか貯金も資産もさっぱりありませんから法律関係もオールオッケー。どんとこい世界の終末……

 そこまで考えたときにケータイが通知音をならす。さっきの友達からだ。

「ごめん誤字った。終末→週末ね」

 ええそうでしょうね。知ってます。そしてあなたの誤字のせいで勝手ながら私は傷つくことになったので週末、責任取ってください。



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