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取扱説明書【節は冷蔵庫に入れてはいけない理由】

今回は、姿節を扱う方に向けての説明です。
削り節の事ではありませんので、ご注意ください。

きれいな節は、ルビー色をしています。

まず『節』とは、姿売り(一本売り)のかつお節のことを指します。
形状によって、『本節』又は『亀節』といいます。
「本節」は、一尾の鰹を三枚におろした後に、背腹で柵に切り分けて四本に分けて作られたかつお節の事を指します。
「亀節」は、小さい鰹を三枚におろして、半身で作られたかつお節のことを指します。
そして、それらを削ったものを『削り節』といいます。
今回は、削っていない、姿売りのかつお節のお話です。

現在、節を買われると、実に多くの方が冷蔵庫に保管されています。しかしそれは、実は節にとって、非常に過酷な環境となりますので、弊社では『節は冷蔵庫に入れないでください』と、常々お伝えしています。
その理由について、今回はお伝えしていきます。

理由① 乾燥してしまうから

かつお節は乾物ですが、ある程度の水分があります。
適切な水分量になるよう、弊社で熟成や調整をして、お客様のお手元に届けております。
これが、冷蔵庫に入れられることで、一気に乾燥が進み、必要な水分が抜けてしまい、急激な乾燥から「身割れ」が起こったり、「味の低下」が起こったり、場合によっては「冷蔵庫内の匂いを吸着」してしまうこともあります。

実は、家庭用の冷蔵庫というものは、非常に乾燥しています。機械の性能や、中にどのくらいものが入っているかなどによって、差はありますが、全体的に非常に低い傾向があり、『ラップがきちんと閉じられてなかったために食品が乾燥してカピカピになってしまった経験がある方』という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
業務用の高湿度冷蔵庫というものがありますが、それを除くと一般的には、冷蔵庫の中は一晩で魚の干物ができるくらい乾燥しているのです。

その中にラップに包んでいたり、ジップロックの袋に入れているからといっても、ひと月も入れていたらどうなるでしょうか?
がびがびのバリバリに乾燥してしまいます。

試験的に弊社の冷蔵庫(一般家庭用の125Lのもの)に約2ヵ月半入れていたものがこちらです。

左の写真が表、右の写真が裏です。節は10月に入荷したもので、日干をほぼしていない状態から、12月の頭に冷蔵庫に入れて、2月17日に取り出しました。
約2ヶ月半が経ち、冷蔵庫から出した所です。全体にひび割れや裂けがでており、手触りもガサガサで、ささくれ立っており、目で見て乾燥がわかるほどでした。

上の写真ではわかり辛いと思いますが、全体的に手触りががさがさになっており、明らかに水分が足りていないということが、触った瞬間にわかります。
表を見ただけで、かつお節の首(下の写真の右下の画像)の割れ目できて、深く広がっています。
更に、ひっくり返して、裏を見て驚きました。
冷蔵庫に入れる前にはなかった、大きな身の割れが発生して、全体的に細かなひびが入っています。

通常、このような具合になるには2年以上の時間がかかるものです。それが僅か2か月でここまで急激に乾燥してしまい、多くの割れが発生してしまいました。
いえ、この下の写真の右上に出ているような大きな身の割れは、急激な乾燥から生じている可能性も高く、自然状態においていたら、こんな割れはできなかった可能性も高いものです。

また、この節を削ると、このような状態になりました。

首の割れ目から、裂けるように砕けた節。ぼろぼろです。
左が乾燥した節。右が通常の節。左は乾燥のし過ぎで細かなひびが入り、そこから更に乾燥が進み、全体が白っぽくなっている。この状態ではいくら削っても粉になってしまう。

お客様にヒアリングしていますと、節一本を使い切るには、特別早い方でも約1か月、長い方ですと1年近くかけて使われるそうです。
その間、冷蔵庫に入れていますと、どんどん乾燥は進みます。
このかつお節は丸のまま、削った面はなく、最も乾燥しづらい状態であっても、このような状態でした。
これが削った面ができて、空気に触れる面が増えていたら、どうでしょうか?
表面積が増えるということは、それだけ乾燥しやすくなるという事です。
つまり、使えば使うほど(節が小さくなるほど)乾燥の速度が上がり、劣化が起こりやすくなります。

例外的に、料理店さんで冷凍庫などに保管されている場合もありますが、これは消費の速さが段違いですので、比較になりません。
お店によっては、毎日「1本」削るくらい、お使いになるところもあります。そういった場合は、例え表面を、きれいに削り落としていたとしても、1週間以内に削ったものを、使い切られているのであれば、味の劣化はそう大きくありません。
お店で行われている管理方法と、ご家庭で行われる管理方法を、同じように考えていては、うまくいかないことが多々あります。使っている道具、環境、頻度、様々なものを考慮して、適切な管理方法をしていただくことが必要です。
ただそれでも、飲食店さんでお使いになられるとしても、ずっと節を入れっぱなしでは劣化してしまいますので、おすすめはしておりません。
また、『(業務用の)高保湿の冷蔵庫での保管はどうか?』と尋ねられることもありますが、これは明確にNGとお伝えしております。こちらは、逆に湿度が高すぎて、節にとって余分な水分が戻ってきてしまいます。
短期間であっても、通常の冷蔵庫よりも、高保湿の冷蔵庫の方が、かつお節の質は低下する速度が速いので、うちでは明確にNGとお伝えします。

扱い方がわからない、という事であれば、そのまま常温に置いておくことをお勧めいたします。
何故なら、かつお節は『冷蔵庫が生まれる前の時代に生まれた保存食だから』です。

理由② 味・香りが落ちるから

乾燥が過ぎると味が抜けます。

かつお節の美味しさは、水分量と大きな関係があります。
お客様のお手元に届いたときは、美味しさがほぼ頂点に近い状態でお届けしております。これはベストな水分量に近い状態です。この時期を過ぎてしまうと、次第に乾燥が進み、それに従いひび割れが増え、そのひび割れから酸化して劣化し、味が弱くなります。(私たちは『味が抜ける』と表現しています。)
冷蔵庫に入れて乾燥が進むと、このピークが急速に過ぎてしまい、どんどん味が落ちていき、結果、「全然おいしくないかつお節」となってしまいます。
これではせっかく「美味しいかつお節」を期待して、手間をかけて削ったのに、肩透かしを食らったようになります。

また、それ以上に嫌な事として、冷蔵庫内の匂いを、節が吸着してしまいます。乾燥が進むことで細かなひびが入り、その小さな割れに冷蔵庫内の匂いの成分が入り込んでしまい、出汁を引いても、食べても、冷蔵庫の匂いがすると状態になってしまうのです。
こういった話は、度々耳にしますし、実際に自分で試してみて、深く納得しました。
一度付いた匂いは、抜くことはできません。冷蔵庫外でも、臭いの強いものと一緒に置くのは避けたほうがいいかもしれませんね。

まとめ

冷蔵庫は、『時間を止める魔法の箱』ではありません。
こと、かつお節(節)に至っては、時計の針を進めてしまう『劣化の箱』になってしまうのです。

基本は、常温で保管の上、乾燥のきつい時期に、気になるようであれば、ジップロックの袋に入れておく、程度で良いのです。
「梅雨時にカビが生えたら…」「虫が寄ってきたら…」とご心配の方もいらっしゃるかもしれませんが、もしもそうなった場合は、再びたわしと流水できれいに洗い流して、風通しの良い所で陰干ししておけば、問題なく使えます。

キャベツの皮で包んで…、タオルで包んで…、濡れた新聞で包んで…ラップで包んで…
まことしやかに、様々な扱い方が言われていますが、それは本当に、実践された方の経験談なのでしょうか。
かつお節にとってベストな状態を、維持することを考えたら、私には冷蔵庫に入れるという方法は、とてもオススメできるものではありません。

気になる方は、ぜひお試しください。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。