ある日曜日
7月の、ある日曜日の午後、知らない街までバスに乗って会いに行った。
はじめて聞いた停留所の名前を忘れないように、頭の中で何度も繰り返した。
andymoriのすごい速さをずっと聴いていた。
横断歩道の向こう側にその人は立っていて、私に手を振っている。横断歩道を渡り終えた、傍らの花壇で蝉がひっくり返っていた。
その人は蝉を指さして、
脚が閉じてるからこれは死んでるね。と言った。
えー、知らなかった。と私が応えると歩き出す。
道路沿いのコンビニは寒いくらい涼しかった。
その人は私に、ビール飲みなよ。と言った。
あなたがそんなにお酒の好きなひとじゃないことを知ってる。
コンビニを出て向かったのは、都会の植物の香りがする家。棚の上にほんとうに植物があった。その横に大きなテレビがあった。映画を観るためのテレビだと言っていた。でも、私はキッチンがいちばんすきだった。数年前に友達が住んでいた家のキッチンに似ていて、同じ匂いがしたから。
夏の暑い、すごく暑い日、日曜日の午後、
ここにおいでと言ってくれる人が居て、
すきなビールを飲めることが嬉しかった。
東京の住宅街、アパートの2階のベランダで煙草を1本貰った。人間の体温と同じくらいの気温。高い湿度の中で吐き出した煙は濃かった。
知らないバンドが歌う
知らない音楽が流れていて
知らない世界に来たみたいだった。
たくさん話しても、まだ、
あなたのことが何も分からなくてさみしかった。
それから映画を観た。なるべくおとなしく。
すこし退屈だったし、すごく真剣に観た。
日が暮れてほしくなかった。
夏の役立たず。
定食屋さんで一緒に夜ごはんを食べた。
いっぱい食べなと言って、雑炊をよそってくれたあなたのその姿を見た女性の店員さんが、優しい〜と言った。目の前に優しいひとが居るということを知られて、なんだかすごく安心した。
出汁とたまごのやさしくてあったかい
雑炊を食べながら、その人は、
夏っぽくないよねと言って、笑っていた。
たしかにね。
知らない商店街をまっすぐ歩いた。
帰りは電車で帰った。
それはいつもなら、快速急行で一瞬で通り過ぎてしまう駅で、電車の中からいつも一瞬だけみていたホームに、私が立っていた。
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