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【学習者の質問に答える】手っ取り早く韓国語が分かるようになるには?

 推し活をしている人は特に、韓国語学習について早く韓国語がわかりたいという思いが強いと思います。難しい質問ですが、解答してみたいと思います。

推しの言うことがわかりたい

 それさえ叶えば他のことはどちらでもよい。他のこととは、会話、作文、読解などは正直どっちでもいい。このブログで散々書いている「文化」もどちらでも良いものだと思われているでしょうね。それだけ、わかりたい思いが切実なのだと思います。特に字幕なしのオンライン配信に接しているファンにとって、こうした願望は切実です。

4技能をバランス良く、基礎をしっかり?

 これが、普通の韓国語学習です。4技能とは「書く・読む・話す・聞く」。基礎とは「文法」の理解と運用、「単語」の暗記などのことです。

 しかし、4技能の中の「読む」「書く」の習得には毎日、コツコツ、反復練習が必要ですね。「文法」理解や「単語」の暗記には、相当なトレーニングとある程度の期間がかかるのは目に見えています。全く手っ取り早くありません。

 「推しに思いを伝える」ための「話す」はアウトプットです。実はこれはそんなに難しくありません。音として伝えたいならフレーズを暗唱すればいいです。手っ取り早いです。「書く」も、まったくの初心者もコピペして送信することができます。キーボードを設置し、タイピングをマネながらなら自分でも打てます。手っ取り早いです。

 でもすでに、「話す」「書く」「読む」技能は不要だとおっしゃってますね。おっしゃるとおり、4技能のバランスや基礎は無視しても構わないと私は考えています。

 では、相手の言っていることがわかりたい。
 これは「聞く」技能のことを指すのでしょうか?

 「相手の言うことがわかること」は、「私が伝える」にあたる「話す」や「書く」とは違って受け身です。実は、これは猛烈にハードルが上がります。「文字」は即座に理解できなくても目の前に留まり続けてくれますが、「音」はこちらの理解のスピードに合わせてくれません。聞こえなくても、意味がわからなくても、どんどん先に進んでいってしまいます。若い大学生でも、2年間基礎を学び、半年留学してようやく「相手の言うことがいくばくかわかる」ようになるものです。年齢、時間、お金の条件も絡むので、最もハードルが高いと言ってもいいかもしれません。

 では、手っ取り早く推しの言っていることがわかるようになるのは無理なのでしょうか?

いえ、待ってください。

 皆さんがすでにお使いの翻訳機と意味世界の学びを組み合わせれば、推しの言うことがわかるようになる方法があります。推しが話した全文は理解できないとしても、一番大事なところがわかるようになれば良くないですか?

 そこで、私がおすすめしたいのは、4技能をバランス良く鍛え上げるのでもなく、文法を一から理解して単語を無理に暗記する基礎をしっかりでもない。「意味世界」を学ぶという方法です。

情報伝達と意味世界

 言葉には、「情報伝達」の領域と「意味世界」の領域があります。

 普通の韓国語学習は、「あそこを曲がればデパートがあります」「昨日、渋谷で見た映画がとっても面白かったです」のような、文化的事象を極度にシャットアウトした「情報伝達」の訓練が中心です。「兄」は2つあって、女性が言うときは「オッパ」、男性が言うときは「ヒョン」。「愛しています」という文は基本形「サランハダ」を「サランヘヨ」にしますなど。単語の対訳、文法が中心です。

 こうした「情報伝達」の学習をコツコツ続けて極めていくと、確かに推しがする「情報伝達」の部分は理解できるようになるでしょう。「朝7時に起きました」「さっき夕食を食べました」「明日はコンサートです」といった文です。音声だけだと文字よりも精度は下がりますが、こうした情報伝達としての言語は、翻訳機が立派に仕事をしてくれます。基礎からしっかり学ばなくても、翻訳機が手っ取り早く解決してくれるのです。

 もう一方は、「意味世界」の学習です。「意味世界」の領域とは何かというと、ある文化に特有の表現だったり、その社会の共通認識、ことばの周辺や外側に現れる世界のことです。これは、基礎からしっかり4技能を学んだとしても、それだけでは身につくものではありません。基礎からしっかり4技能は、日韓のことばの中で共通する部分を拾い出す学習であり、私が韓国語を運用し使うための学びを中心に組み立てられているから。日本にはない文脈、私の知らない文化や現象は基本的にスルーされるのです。

 具体的には、「オッパ」は肉身のお兄さん以外に、気心が知れた先輩、恋人、推しにもオッパを使っています。日本語の持つ「お兄さん」の意味とはどこかずれています。「サランヘヨ」は「愛してます」と訳されますが、日本語の文脈とは使い方が異なります。男女だけでなく、アイドルがファンに向けてや、親子間でもよく使います。

 このように、文法や発音など言葉の中身を覗くのではなく、言葉の外側、周辺に注目した学習は、翻訳機がカバーしてくれない領域であり、日本語で学べることから、基礎からしっかり学ばなくても良い学びなのです。

意味世界を学ぶとは

 一つ例を出してみましょう。

BTSのWeverse

 これはBTSのWeverse(アイドルとファンのための専用SNS)に書き込まれたメッセージです。
 ライブ直前にコロナで隔離されていたJ−HOPEが、「大事な時期に陽性になって心配でしたが、隔離期間中しっかり食べて寝て元気になりました」というメッセージを書き込みました。それに、SUGAがつけ加えたコメントを見てみましょう。
手っ取り早く翻訳機にかけますね。

그대여 아무 걱정하지 말아요~우리 함께 무대합시다아….
君よ何の心配もしないで~僕たち一緒にステージをしましょう。あ

SUGAのWeverse

 ライブまでにちゃんと回復できるのか。そして、無事渡航できるのか。非常に心配なタイミングでした。J-HOPE自身も不安だったと言っていますから、「大丈夫、大丈夫」と本人を励ました、あるいは「ちゃんとステージをするから何も心配いらないよ」とファンを安心させようとしたのかもしれません。ここまでは、翻訳機だけでちゃんと理解できました。手っ取り早いですね。

 でも、ちょっと待ってください。なぜ「君よ」なんて言ったのでしょうか。J-HOPEに対してでもファンに対してでも、少し違和感ありますね。「僕たち一緒にステージをしましょう」は、J-HOPEを欠くことなくメンバー全員揃って、あるいはファンのみんなと一緒にライブをしようね、ということでしょうか。
 これを読んだ韓国の方は、頭にあるメロディーが流れたはずです。そう、このコメントはある著名な歌のパロディーだからです。

 その有名な歌とは、チョン・イングォンの「걱정말아요 그대 (心配しないで、君よ)」です。チョン・イングォンは、80年代にデビューした韓国の伝説的ロックバンド、トゥルグックァのボーカルです。この曲は、ソロとして2004年に発表した自身の代表曲の一つ。その後さまざまな人にカバーされ、またドラマ「恋のスケッチ〜応答せよ1988〜」の挿入歌にも用いられ、若い世代にも広く知られるようになりました。
 2004年発表曲というのは意外で、もっと古いフォークソングの時代を思わせるサウンドです。それもそのはず、70年代のドイツのグループの曲の盗作疑惑が浮上したことでむしろ納得(笑)。知らない人はぜひ、イ・ジョクのカバー版ですが一度聞いてみてください。

 この歌の出だしは、「그대여 아무 걱정하지 말아요. 우리 함께 노래합시다 」(君よあまり心配しないで、一緒に歌を唄いましょう)。
 みんなが心配でヒヤヒヤしていたタイミングだったから、「何も心配いらないよ、みんなでライブしよう」というコメントを、노래を무대に代えたパロディーですることで、緊迫した空気を少し和ませようとしたようにも見えます。「大丈夫です。皆さん心配しないでください」と生真面目に伝えないところに、SUGAの人となりが伝わってきますよね。

 これが「意味世界」です。こうした意味世界は翻訳機が説明してくれないし、字幕からも抜け落ちます。でもファンなら推しの言葉の意味を深く理解したいですよね。しかも、韓国語を基礎からしっかり学んだ人にもわからないことがわかったら最高ですね。そのためには、「言葉の背景」を学ぶのがいいのです。表面的な意味は、翻訳機が教えてくれます。文法を一から理解し、単語を暗記して、辞書を引いて翻訳できるようにならなくてもいいんです。だってその部分は翻訳機が「手っ取り早く」してくれますから。手っ取り早く推しの言葉がわかるようになりたいなら、力を入れるべきは「意味世界」を学ぶことの方なのです。

 韓国語の「意味世界」に注目して作ったのがこの単語帳「くらべて覚える韓国語」です。気になる方は、こちらのnoteもぜひ読んでみてください。


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