「ぼくは、迷子じゃないよ」「迷子は皆、そう言うんだよ」
11/22。
5:30起床。
天気は晴れ。
*
ああ、まただ。
頭の中が、びりびり痺れている。
痺れて、痺れて、自分が今どこにいるのか、わからなくなる。
落ち着いて……。落ち着いて……。
そうそう、じっと目を凝らして。
ほら、目の前には何が見える?
――海。
ぼくの目の前には、海が広がっている。
ぼくは、浜辺にいるんだろうか。
それとも、沖にいるんだろうか。
ぼくは……。
――また、迷子になったの?
ぼくは、問いただされている。
他ならぬ、ぼく自身に。
――迷子だと思ってないから、迷子じゃないよ。
――迷子は皆、そう言うんだよ。
ぼくは、ちょっとむっとする。
でも、たぶん事実なんだと思う。
――ここは、浜辺なの? それとも沖なの?
――それを訊いて、どうするの?
――……ここ、どこなの?
――見ての通り、海だよ。
ああ、これじゃ埒が明かない。
ぼくはぼくと喋っているはずなのに、会話が成立しないのはなぜだろう。
――帰りたい。
――どこに?
――どこって……。元々いた場所に。
――本当に?
――え?
――本当に、そう思ってる?
ぼくは、そのことについて、しばらく考えてみる。
考えて、考えて、一つの結論を出す。
――本当に、思ってるよ。
――そんなに帰りたいの?
――だって……長居するには、ここは寒すぎるから。
姿の見えないぼくは、けらけら笑う。
どうして、自分にまで笑われなきゃいけないんだろう。
笑われるのは、他人だけで充分なのに。
――そんなに、おかしいかな。
――いやいや。暖かかったら、いいのかなって。
――そういうわけじゃないよ。……この景色は、見ているだけで凍える。きっと、頭の中が痺れているせいだ。
けらけら笑っていた方のぼくは、もう笑っていなかった。
急に、神妙な空気が辺りを包む。
――よくわからないけど、帰っていいの?
――帰りたかったら、帰ればいいよ。でも、
――でも?
――忘れるんじゃないよ。ここに来たのは、自分が望んだからだって。
そして、ぼくは戻ってきた。
自分自身に捨て台詞を吐かれて。
――忘れるわけ、ないんだよな。
あんなに寒々しい景色を。
そんな景色に、自らを放り込んだことを。
そんなこと、忘れるはずがないだろう。
ぼくの頭の中は、まだ痺れている。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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