見出し画像

gravity(お題:『魔女』『しもべ』『迷子』 )

あらあら、こんにちは。こんなところで、どうしたの? お父さんとお母さんは? 迷子になっちゃったの?


……わたし? わたしはね、この森に暮らしているの。だから、わたしは迷子じゃないの。心配してくれて、ありがとう。とても優しい子ね。


……「そんなこと、初めて言われた」? そうなの? あなたみたいに、優しい子が……。あらあら、くしゃみが……。ここは、とても寒いものね。ひとまず、うちにいらっしゃい。おいしいココアをごちそうしましょう。





はい、どうぞ。あなたが泣き止むように、魔法をかけておいたわ。……なんて、ほんのちょっぴり、クリームを入れただけなんだけど。……おいしい? それは、よかったわ。少しは温まったかしら?


……魔女? わたしが? ふふ、おりこうさんなのね。たしかに、わたしは魔女よ。もう誰にも信じてもらえないし、誰にも会わないもの。誰かに会ったのなんて、何年ぶりかしら。


……あら、あなたがお友達になってくれるの? とてもうれしいわ。こんなに優しい子が、お友達だなんて。……あらあら、泣かないで。せっかくお友達になったんだから、笑いましょう?





いまさらだけど……あなたは、わたしが怖くないのかしら? ほら、魔女って怖がられるものでしょう? 子どもを攫ってぱくっと食べるなんて、根も葉もないこと言われちゃって。


……怖くない? そう? とってもうれしいわ。そんなことを言ってくれる人間が、まだいたのね。


……アップルパイも、そろそろ焼けた頃かしら? あなたも、アップルパイが好き? ……食べたことないの? じゃあ、たっぷりごちそうしてあげる。


……はい、どうぞ。……おいしい? ああ、よかった。今日は、なんて最高の日なんでしょう!





そろそろ暗くなってきたわね。……どうしたの?


「帰る場所がない」? 「お父さんお母さんに捨てられた」? そう……。でも、大丈夫よ。これからは、わたしがいるもの。


ふふ、あなたをぱくっと食べたりしないわ。百年ぶりに、しもべができるんだもの。


……しもべについて? それは、ゆっくり教えてあげる。大丈夫。あなたはまだ子どもだから、たくさんのことを学べるわ。たくさん、たくさん……。
いずれ、あなたを捨てた人間を■すこともできるようになる。


安心して。わたし、一度拾ったものは、壊れるまで大切に使うのよ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。