だから、僕は覚悟を決めた(聖戦/女王蜂)

僕は今、新人賞に応募する長編小説を書いている。


「小説が好きだから」「楽しいから」では、決してない。


「書けば書くほど苦しい」


僕が書いているのは、そんな物語だ。


それは楽なことではなく、むしろ血がにじむような思いを毎日味わっている。


けれど、


「書かなければいけない」
「書かずにはいられない」


だから、書いている。

泣き方を忘れた正しさなんて
いやだ

その覚悟が出来たのは、女王蜂のおかげだ。





僕は、それまで甘ったれた生活をしていた。


自分は昔から、発達障害や精神疾患を抱えている。他人と関わることが何よりも苦痛で、何度も職を失った。パートナーに出会ってからも、その日をどう過ごせばいいのか考えるだけで頭がいっぱいだった。


仕方ないところもあったとはいえ、「障害者だから」「うつ病だから」それに甘えていたところもあったことは否定できない。


そんな自分にも、夢があった。


「作家になりたい」


その方法の一つとして、まっ先に思い浮かぶのは、出版社の新人賞に応募することだろう。


新人賞が求めているのは、基本的に長編小説だ。僕には、それまで長編小説に手を付けることを避けてきた。


長編ということは、長期間その作品に向き合うことになる。それほど長い間、自分の才能の無さと向き合うことが怖かった。


僕は毎年のように、「今年は何を書こう」と考えていた。でも、それはいつも考えるだけで終わっていた。


そんなときに、女王蜂に出会った。


出会ったその日から数日間、まるで熱に浮かされたように、なかなか眠れない日が続いた。彼女達の音楽は、それほど衝撃的だった。現実を見据えることが出来ずにいた僕を揺さぶるほど。


自分の甘えを叩き付け、
自分の存在を肯定する。
女王蜂の音楽は、生きることへの妥協を許さない音楽だ。


僕はそのときすでに、ある小説の構想が思い浮かんでいた。そしてそれは、短編に収まるようなものではなかった。


「これを長編小説に仕上げて、今年の新人賞に応募しよう」


それまで候補に挙がっていたいくつかのアイデアを全てボツにし、頭の中を占めているそのアイデアに着手することにした。7月の終わりのことだった。

やさしさではたどり着けない
安らぎを求めて きっと帰れない

そして僕は、1日6時間以上執筆するようになった。それが多いのか少ないのかわからないけど、一週間以上何も書けなかった時期もあった自分からすれば、驚くべきことだった。


当初立てていた計画よりも、作業はかなり前倒しで進んでいた。毎日毎日、僕は何かにとり憑かれたように書き続けた。


先述の通り、自分の才能の無さを実感し、志が折れかけたことは一度や二度じゃきかない。


その度に、女王蜂のアルバムを聴いたり、ボーカルであるアヴちゃんの過去のインタビュー記事を読んだりしながら、歯を食いしばって書き続けた。


プロットを書き、一度目の原稿を書き上げ、それを元にプロットを練り直し、二度目の原稿を書き上げたのが数日前のこと。そして、現在は先の見えない推敲作業中。


新人賞の〆切まで、あと3週間。


まだ間に合う。


まだ、書ける。





僕は昔から、音楽が好きだった。敬愛するミュージシャンも、いくらでも挙げることが出来る。


けれど甘ったれていた鼓舞し、実際に行動に移させたのは、女王蜂が初めてだった。

この戦いが終わるまでは
闇と読めても愛と呼ぼうよ

僕は毎朝、ある曲を聴いてから作業に向かう。


目の前の現実と戦うために。


今も、そしてこれからも戦い続けるために。


女王蜂が与えてくれた覚悟と共に、僕は現実に向き合っていく。


”聖戦”



註:引用部分は全て、女王蜂”聖戦”より。

聖戦(『十』収録)/女王蜂(2019年)

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