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「ボクはまだここにいるのかな、アルネ」

9/16。

5:52起床。

天気は晴れ。





――あ、いたいた。


彼女が、ひょっこり顔を出した。


――アルネ。


ボクにしか見えない、ボクだけの女の子。


――「いたいた」って。探すほどじゃないでしょ。

――なんか、いなくなっちゃったような気がした。


ボクはそのことばに、なぜかどきりとした。


――いるよ。ちゃんと、ここにいる。


まるで自分にいい聞かせるように、ボクはくり返した。


アルネは、ボクにそっと近付くと、つむじの辺りに息をふっと吐きかけた。


――ゴッドブレスユー。

――はは、ありがとう。


ボクは、ようやく立ち上がる気になった。


――本日のご注文は? お嬢さん。

――ホットコーヒー。

――涼しくなったからね。きっと、おいしいよ。


昨日買ったばかりの豆の封を開けると、ボクの好きな匂いが立ち上り、ようやく安心できた気がした。


――はい、お待ちどおさま。


アルネは、豆を挽くときからカップを手渡すまで、じっとボクを見ていたけど、ようやく目を離し、淹れ立てのコーヒーに夢中になった。


――ボクは、今にも消えてしまいそうに見えるのかな。


アルネがコーヒーを半分まで飲み干したところで、なんとなく訊いてみた。


――見えないよ。見えないけど……そんな予感がしたの。もう、コーヒー飲めなくなるのかなって。

――……まあ、ボクは君専属のお茶係だからね。

――ソコは冗談よ。とにかく、心配になったから見に来たの。

――それは、どうもありがとう。じゃあ、


ボクは、自分の手の平を見たり、甲を見たり、そんな仕草を何度もくり返した。


――ボクはまだここにいるのかな、アルネ。君には、ボクがちゃんと見える?


アルネは、ボクをじっと見つめたあと、ほんの少し肩をすくめた。


――ええ。わざわざ触らなくても、わかるわ。君は、ちゃんとここにいる。

――……よかった。


ボクは、自分が心から安堵していることに気付いた。


――不安にさせちゃったかな。

――まあ、不安にはなったけど。でも、安心もできたから。


アルネは、ようやく屈託のない笑顔を見せてくれた。


――私も安心した。だから、おかわりする。

――最初から、そのつもりだったでしょ。


ボクはアルネのカップを受け取り、「自分も、もう一杯飲もうかな」と考えた。





「僕だけが、鳴いている」


これは、
ボクと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。


連載中。


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