「ボクはまだここにいるのかな、アルネ」
9/16。
5:52起床。
天気は晴れ。
*
――あ、いたいた。
彼女が、ひょっこり顔を出した。
――アルネ。
ボクにしか見えない、ボクだけの女の子。
――「いたいた」って。探すほどじゃないでしょ。
――なんか、いなくなっちゃったような気がした。
ボクはそのことばに、なぜかどきりとした。
――いるよ。ちゃんと、ここにいる。
まるで自分にいい聞かせるように、ボクはくり返した。
アルネは、ボクにそっと近付くと、つむじの辺りに息をふっと吐きかけた。
――ゴッドブレスユー。
――はは、ありがとう。
ボクは、ようやく立ち上がる気になった。
――本日のご注文は? お嬢さん。
――ホットコーヒー。
――涼しくなったからね。きっと、おいしいよ。
昨日買ったばかりの豆の封を開けると、ボクの好きな匂いが立ち上り、ようやく安心できた気がした。
――はい、お待ちどおさま。
アルネは、豆を挽くときからカップを手渡すまで、じっとボクを見ていたけど、ようやく目を離し、淹れ立てのコーヒーに夢中になった。
――ボクは、今にも消えてしまいそうに見えるのかな。
アルネがコーヒーを半分まで飲み干したところで、なんとなく訊いてみた。
――見えないよ。見えないけど……そんな予感がしたの。もう、コーヒー飲めなくなるのかなって。
――……まあ、ボクは君専属のお茶係だからね。
――ソコは冗談よ。とにかく、心配になったから見に来たの。
――それは、どうもありがとう。じゃあ、
ボクは、自分の手の平を見たり、甲を見たり、そんな仕草を何度もくり返した。
――ボクはまだここにいるのかな、アルネ。君には、ボクがちゃんと見える?
アルネは、ボクをじっと見つめたあと、ほんの少し肩をすくめた。
――ええ。わざわざ触らなくても、わかるわ。君は、ちゃんとここにいる。
――……よかった。
ボクは、自分が心から安堵していることに気付いた。
――不安にさせちゃったかな。
――まあ、不安にはなったけど。でも、安心もできたから。
アルネは、ようやく屈託のない笑顔を見せてくれた。
――私も安心した。だから、おかわりする。
――最初から、そのつもりだったでしょ。
ボクはアルネのカップを受け取り、「自分も、もう一杯飲もうかな」と考えた。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、
ボクと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。
連載中。
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