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毎年咲くアジサイ『花のあるストーリー』★7★

こんにちは。藍澤誠/Jの先生です。

80歳を越えてもなお元気な私の母。
年齢的にみると立派なおばあちゃんだけれど、息子の私からするとおばあちゃんな感じはまったくしません。そんな母は毎日せっせと、たくさんの花の手入れしています。

「ほらほら、このアジサイ。前にもらったのを土におろしたら、ほら、こんなきれいにいっぱい」

数年前の母の日に孫から送られたアジサイの鉢植えを、ボランティアとして手入れしている学校の花壇へ移し替えたら、毎年きれいに咲いているとのこと。去年も、その前の年も、同じセリフを聞いた覚えがある(来年もこの季節に、同じセリフを聞けるといいんだけど)。

空は曇っている。なのにじんわりと暑い陽が差してくる。
高齢者にとって過酷な季節はこれから本格化。
クーラーを我慢するのが美徳の世代だから気をつけないと。

「無理しないでね」

そんなふうにやんわり注意しても意味なさそうなので、細かいことを具体的に念押しする。

「涼しい時間帯以外はぜったいに作業しないでね! あと重い肥料運ぶとか、枝をはらうとかあったら必ず――」

母親はしばしば、私の話を最後まで聞かずに返答する。

「毎朝5時にやってるから大丈夫!」

そして再びアジサイを褒める。
「ほら、こんなに。今日もかわいく咲いてる、ほらこれ、見て」

アジサイは「紫陽花」という漢字からの連想で紫のイメージだけれど、じっくり観ると(今、写真を改めて観ると)たくさんの色と形を持っていることに気づきます。美しい花もいいけれど、葉っぱもくっきりとした緑で、みずみずしく力強くて素敵。

「自然の色とか形って・・・すごいね」
「あっちのバラも、あなたたちにもらったバラだよ」

切り花は枯れたらそこまでだけれど、土におろした花は毎年その命をリレーできる。

「ん? どのバラ?」

実はどのバラかは知っている。
去年もこの会話をしたからね。

人間の愛情を受けている花たち。
家族の愛情を引き出してくれる植物たち。

朝5時に、何年間も毎日活動することが「ムリしている」ことにならない。
そんな花のような生活もあるんだな、と思った藍澤誠/Jの先生でした。

★第7話 あとがき★

母が手入れをしている花壇に、平気かどうか知らないけれど、たばこやゴミを捨てる人がいます。育てた花を勝手に盗ったり、いたずらで大量に花を折ったり、手入れのための道具を盗んだり、毎日定期的に、ペットのふんを放置する人もいる。小学生の中には、わざと葉っぱを落として、母に「ひろえ!」って言った子もいるそうだ。

庭(学校の敷地まわりの花壇)の手入れに携わっていると、そういうのも含めて「現実社会」だということが、腹を立てるでもなく、諦めるでもなく、自然に理解できる(私は短気だから腹は立つけれど、それが現実だと理解はする)。

ある人にとってとても大事な場所は、別の人にとっては何の思い入れもない場所であり、ゴミを捨てるのに都合の良い場所であり、なんの遠慮もいらない、たんなる背景のような場所であったりする。これは花壇に限らない。ありとあらゆる「半公共の場」はそのような場所なんだろう。

人はそれぞれだ。植物も虫たちも同じ。雑草のレッテルを貼られる植物はばんばん生えるし、虫もそれぞれの道理で、人間の気持とは無関係に自由に振舞う。ちょうちょだけがひらひらと飛んでいて欲しい、うざい蚊は絶滅して欲しい、変な悪さをする人はこの花壇に近寄らないで欲しいなんて、ぜんぜん言えない。

この世界にはたくさんの色と形がある。
それぞれが、それぞれの道理や理屈でせっせと生きている。
それでも――

「いつもお花ありがとうございます」

子どもとは思えない言葉をかけてくれる、小学生2年生と3年生の子もいるそうだ。それで思い出したんだけれど、いきつけの花屋の店主が去年、思い出話をしてくれた。私より少し年上の彼は、小学生のとき、勉強も苦手だし、友達がいないから、いつも学校の花に話しかけていたらしい。花だけが支えだったから、花屋さんになったと少し涙ぐみながら言っていた。

そんなマンガみたいなことある? と思ったりしたけれど、その個性的な色と形を通して、花が人の心を和ませてくれたり、学校の花を見て人生が変わるようなことがあると今なら心底思える。それならフンを片づけるくらいは仕方がないし(そのワンちゃんの健気さに飼い主は支えられているのだろうし、いろいろな事情で心や体に余裕がないのかもしれない)、暴言を吐くような子どもの環境を改善できるのは大人なのだから、自分の持ち場から、社会をよりよく改善する方法を実践していくしかないよな、と思うのでした。

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