きみのとなりにいる僕⑤
早朝。都心にしては雪が随分と積もっている。見慣れた街は白く染まっている。今年は結構降ったな。僕は仕事の為足早に駅へと向かう。雪は踏みしめる度にサクサクと音を立てる。こんな朝早くに近所の子供達は雪合戦をしている。都心では珍しいもんな、こんなに積もるの。
「さみー」
僕は寒いのが苦手なんだよ。ベッドで毛布にくるまっていたい。……あの人に手を握ってもらっていたい。
にや。おっと、顔が。すっ、と真顔に戻す。
「何?なんかいいことあったの?」
突然横からそう声を掛けられた。
「おわあっ」
驚いて横を向くとそこには以前出会ったガタイのいい男性がいた。
「そんな驚くこと?」
男性は不思議そうに尋ねた。焦ったー。しかもにやけてるとこ見られてたんかい。
「別に何でもないっすよ」
僕は仏頂面でそう返した。つもりだが羞恥心で少し顔が熱くなっていた。恥ずい。
「で、何なんすか?」
恥ずかしさを隠すように声を取り繕う。今度は上手くいった……はずだ。
「いや?また会ったなって思って声掛けただけ」
「そうすか」
僕は素っ気ない態度を取った。だってさみーし、あんまり喋りたくねーし。
「はい、これ」
そう言って男性は僕に缶コーヒーを差し出した。
「は?」
不意をつかれ素っ気ない態度は素っ頓狂な声で崩れた。
「何か嬉しそうだったんでお祝いの品」
じゃあな。男性はゆったりとした足取りで駅へと向かって行った。
何だあの人。餌付けが趣味なのか?
ん?寒さで手がかじかんで気づかなかったけど、これ冷たいやつじゃねえか。せめて常温にしろよ。てかこの時期に冷たいの売ってんのかよ。
「やべえ!電車乗り過ごす!」
時計を見るともう発車時刻まで残り3分だった。思わず走り出す。
「おわあっ」
走り出した途端、雪で滑って転倒しそうになった。恥ずー!