桜吹雪。 スカートが捲れそうな風がピューッと通り過ぎて行った。 満開の桜はその風に煽られサァサァと木々を揺らしながら花弁を振り散らす。 私はその幻想的な光景に思わず嬉しくなり、桜吹雪の下で両手を大きく広げクルクルとスカートを揺らしながら回った。 視界いっぱいがピンクの雨。 笑顔が零れるが油断していると一枚の花弁が口の中に飛び込んで来た。 慌ててべーっと舌を出す私を見て彼はパシャリとカメラのシャッターを切った。 そんな瞬間を切り取られ私は恥ずかしくて頬を桜の様にピンクに染め
呼吸が出来ない。 心臓の音がドクドクと波打つ。 涙も鼻水も溢れてくるのに声は掠れて息を吸えない。 助けて。 その場で立って居られなくなり地面にヨロヨロと膝を付く。 目の前の世界が色を失っていく。 耳から入ってくる音が段々と遠くなっていく。 私、このまま死ぬの? 今日は推しのライブで、人生で一番楽しかった日なのに。 助けて。 だが、人々は私なんてその場に存在していないかのように見向きもせず通り過ぎて行く。 どうして? 「大丈夫ですか?」 霞がかった視界に目を閉じようとし
心ごと置いてこれたのなら楽だったのに。 今飛び込めばきっとこの先の苦しみも感じる事なんて無くなって私は自由になれるはずなんだ。 ほんの一瞬。ほんの一歩を踏み出したらいい。 そんな事を考えて、考えて、考えて。 それでいつも終わる。 パァーンと警笛を鳴らして快速電車は駅のホームを過ぎ去って行く。 今日も出来なかった。 やろうとする事は簡単な事なのに、未練なんて無い筈なのにな。 どうして出来ないんだろう。 私は答えの出て来ない"どうして"をぐるぐる考えながらホームへ入っ
暗がりの中、ゴーというエアコンの音が響く。 今日も外は熱帯夜で、また眠れぬ夜は更けていく。 そうだ、眠れぬのならもういっそこのまま起きていようか。 エアコンの効いた部屋の中でもじんわりと自身の体温で汗をかいている感覚が伝わってくる。 二時を過ぎる。 いつもならば眠れなくなるからと伏せているスマホを取り出し、暗がりでブルーライトを浴びる。 三時をまわる。 外からは早朝から忙しそうに走り回る新聞配達のバイク音とポストのカチャンという音が聞こえてきた。 四時が来た。 窓の外
最初の一人が難しい。ココナラの話です。 出品中です。 noteでもココナラについて書かれていた方いたので巡回済み。 初めの一歩が難しい。 https://coconala.com/users/2776416
不安定な自分を立て直せない。不安感から抜け出せない。そこからまた負のループが始まる。 もがけばもがく程に水を飲み込み、体中いっぱいに溜まった水の重みで暗い底に沈んでいく。 鼻からも口からも水は入り込み、肺にも胃にも全てが水で満たされていく。 逝き先はどこ? 魚のように尾びれはなく、イルカのように早くは泳げず、シャチのように勇猛でもない。暗がりで目を凝らす事も出来ずに、幾ら暴れても足掻いても手を伸ばしても。 抗う事は叶わない。 底無しの海の中で夢を見る。魚のような尾び
びゅーっと一陣の風が吹く。雲ひとつ無い青空を桃色の花びらがひらひらと舞染めていく。 「見てください貴一さん!桜吹雪っすよー」 桜の木の下で僕と貴一さんは缶ビール片手に花見に興じていた。 「おおー、綺麗だなー」 僕の隣で貴一さんは嬉しそうに桜の木を見上げる。 「くっはー!っぱ花見にはビールっすよね」 ゴクゴクと喉を鳴らしながら缶ビールを飲み進める。昼間から飲むビールはうめー。 「つまみも美味いな」 僕の作った花見弁当はどうやら貴一さんに好評のようだ。よっし
外、すげー雪降ってるな。都心でこんなに積もるのを見たのはどれくらい振りだろう。窓越しに見た雪はまだ止む様子もなく降り続いている。 カチャリ。テーブルにコーヒーが置かれる。ソファに座っていた僕はコーヒーカップに口をつける。 コーヒーを飲みながらちら、と横目で隣に座るこの部屋の主を盗み見る。その表情はどこか辛そうで… 「みつるん」 急に名前を呼ばれたことに動揺し、コーヒーが意図せず勢いよく口内に流し込まれる。 「うあっつ!」 舌がヒリヒリする。何名前呼ばれたくらい
雪か、今日は随分降るな。明日には大分積もっているだろう。 今日も疲れた、風呂にゆっくり浸かって早めに寝るか。そういえば夕飯を食べていないことを思い出した。ここのところそんな調子が続いている。どこかうわの空、心ここに在らず。理由は分かっている。彼を遠ざけてからだ。こんな自分勝手な男に振り回されるのは可哀想だ、と彼の為に別れを告げた。のは建前で、本当は彼の純粋な好意を自分も純粋に受け止められる覚悟がなかったから。 彼を独り占めにしたい。誰にも渡したくない、束縛、独占、嫉妬
初めてきみを見かけた時のことは今でも鮮明に覚えている。 「今朝は冷えてるな」 寒さでかじかむ手をコートのポケットに突っ込み暖かさを求める。 温かいコーヒーでも飲みたいな。この辺にはカフェなんて無かったよな。仕方なくキョロキョロと自販機を探す。 お、あった。公園の前に自販機が2台並んでいた。 おっと、誰か買ってるか。どうやら先客が居たようだ。 「うー、さみー。コーヒー、コーヒーっと」 その先客もこの寒さの中で小さな温もりを求めて缶コーヒーを買おうとしていた
呼吸が、鼓動が、荒く、浅く、早まる。 頭に浮かぶのは何気無い日々。特別な事をした訳では無いのに、特別な毎日だった。 あぁ…当たり前過ぎて気づかなかった。あの人と居る日々はただそれだけであんなにも色付いていたんだ。 「ちっくしょー!何で僕体育教師じゃないんだよ!!」 そうだったらもっと早くあの人の元へ行けるのに。 もつれそうな足はひたすら前へ踏み出していた。きっとこういう時にアドレナリンが出ているんだろう。全力で駆け続けているのに疲労感はまるでない。むしろこの鼓
「綺麗だったな、プラネタリウム」 雪が降っている。はらはらと。 「良かったす」 僕は俯きながらそう答えた。 ずっと考えてしまっていた自分がいた。 山仲さんと居ると楽しい、自分を好きでいてくれる。 山仲さんと居ると辛くない、愛を表してくれる。 山仲さんと居ると苦しくない、自分だけを見てくれる。 でも違う、違うんだ。 ──何が? 楽しいけど、辛くないけど。でも僕の中がからっぽなんだ。 ──どうして? あの人じゃない
ぴちょんと音がする。水面に一雫落ちて跳ねる。またぴちょんと音がする。今度は二雫落ちて跳ねた。 雨は好きだった。お母さんが迎えに来てくれたから。手を繋いで二人並んで傘をさして、歌を歌いながら家路へとつく。 カエルが鳴いて、雨の音がする。傘にポツポツと雨粒が落ちる音。 なかでも大好きだったのは水溜まりに足を突っ込んだ時の音。 勢い良く両足でボチャン!と飛び込み、バシャバシャとその場で足踏みする。 だって僕が楽しそうに水溜まりと戯れているとお母さんが嬉しそうに笑ってくれたから。だか
心地よいまどろみから目を覚ますと、目の前には一面の花が咲き乱れていた。 そのどれもが紫色の綺麗な花だった。 ふと立ち上がろうと手を地面に置くと花を潰してしまった。 あっと思い手を持ち上げると手のひらは赤く染っていた。 これは一体?ここはまだ夢の中? 今度は思い切って立ち上がり少年は歩き出した。しばらく歩き続けてもどこまでも果ては見えずどこまでも花は咲いていた。 足を進めるたびに花を踏みつぶす。そのたび花からは鮮やかな赤いしぶきが舞い上がり花びらを散らしていた。 やがて目の前に
はぁー、と白い息を吐き出す。 「今日も冷えてるな」 隣を歩く山仲さんが言う。 「そうすねぇ」 僕はどこか上の空で答える。何故だろう、山仲さんと過ごす日々にどこか疑問を抱く。 何故だろう。山仲さんと居るとこんなに楽しいのに。あの時の彼の言葉が耳から離れない。 『 幸せそうで良かった 』 彼は寂しそうな顔で呟いていた 何故? 「どうかしたか?」 山仲さんが心配そうに覗き込む 「何でもないっす」 僕は慌てて何
憂鬱だ。知らずのうちに足で貧乏ゆすりをしていたらしい。今日は診察の日で、あの日以来久しぶりに貴一さんと診察室で向かい合った。 「何か楽しいことでもあったんですか?」 そんな僕の気持ちをどう勘違いしたのか貴一さんが尋ねた。 楽しいことって?僕は呆気にとられた。 あんたに捨てられたのに。あんたがそれを言うのかよ。怒りにも似た感情が僕の中に渦巻く。 そうだよ僕は今楽しいんだ。 僕だけを好きでいてくれる、僕だけを見てくれる人に出会えたんだ。あんたとは違