君のとなりにいる僕⑱

  雪か、今日は随分降るな。明日には大分積もっているだろう。
 今日も疲れた、風呂にゆっくり浸かって早めに寝るか。そういえば夕飯を食べていないことを思い出した。ここのところそんな調子が続いている。どこかうわの空、心ここに在らず。理由は分かっている。彼を遠ざけてからだ。こんな自分勝手な男に振り回されるのは可哀想だ、と彼の為に別れを告げた。のは建前で、本当は彼の純粋な好意を自分も純粋に受け止められる覚悟がなかったから。
 彼を独り占めにしたい。誰にも渡したくない、束縛、独占、嫉妬、醜い自分の内面。そんな自分の心に気づいた時、彼の隣にはもう居られないと思った。彼は真っ直ぐだった。自分の隣に居る時、彼は心から安心してくれていた。自分はそんな彼に対して邪な感情も持ち合わせていた。それが耐えられなかった。
 彼を穢したくなかった。彼には純粋なままでいて欲しかった。それは自分の理想の押しつけに過ぎない。
 彼から好意を告げられる前に自分から遠ざけよう。自分のような男では彼を幸せには出来ない。そう、だから自分勝手な男だって言ったろ?
 本当は怖くて逃げたんだ。君の好きから。君の隣に居たらどんどん自分の中の醜さが成長してくる。そんな自分を君に拒絶されたら?気が狂いそうになる。
 だから自分が傷つく前に君を傷つけて遠ざけたんだ。最低だろ?こんな男はやめて正解なんだ。
 「腹減ったな…」
 ソファにもたれかかったまま時が過ぎていく。うとうとと夢に導かれそうになるくらい経った時。
 ピンポーン!
 ゆるゆると瞼が開いていく。何が起きたのか瞬時に分からなかった。
 ピンポーン!
 一瞬隣の家と間違えていないか?こんな時間にどこのどいつだ。
 ふらふらとソファから立ち上がりインターホンのカメラを確認しに行く。
 その瞬間、安堵のような諦めのような気持ちが体全体に染み渡った。
 「いるんだろ?開けてください」
 みつるん…。
 来ちまったか。
 だらりと両腕が力なく落ちる。
 俺も腹括らないとならないとな。
 「今開ける」
 ガチャン。
 扉を開けると、そこには君がいた。
 愛しくて愛しくてたまらなくて壊しそうで純粋な君が憎らしくて、抱きしめたい。
 こんな気持ちになるから会いたくなかった。
 「よう、みつるん」
 「うす」
 部屋から流れるテレビのニュースは都心での記録的な大雪を報じていた。