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きみのとなりにいる僕⑧

   いい具合に火照った身体が冬の空気に冷やされていく。  
 ちょっと飲み過ぎたか。教頭先生、こっちを酔わせようとどんどん酒注いでくるんだもんなあ。
   冬の宵は寒いけど今は風が心地良い。今日は月の光が薄いようで星がよく見える。冬は何だっけ?あのー、ほら。あれだよあれ。何とか座。  
 そういえば、いつか彼と歩いていた時もキレイな星空だったな。ぎゅうっ。なんか胸が苦しい。  
 最近の自分は何処かおかしい。急に胸がきゅっとなる。もしかして不整脈とか?なんてな。
 胸の痛みの元は分かっている。でも何故かははっきり分からない。  
 まあ、いいや。分からないことを考えてたって堂々巡りだ。  
 がしっ。突然後ろから肩を掴まれた。
 「よっ」  
 またかよ……。二度あることは三度あるとは言うが。まさか、僕のストーカーじゃないだろうな……。  振り向くとまたもやあのガタイのいいサラリーマン風な男性が居た。
 「奇遇だな」  
 「なんすか」  
 せっかく酔っていい気分だったのに。
 「なんかおセンチな雰囲気醸し出してたから」  
 はあ?おセンチって。もっと別の言い方無いのかよ。おっさんくせー。  
 「そこで話でもしていかない?なんか悩んでそうだし」  
 そこって、ブランコかい。そんなお茶していかない?みたいに言うなよ。  
 「はああああ……」  
 僕はこれ見よがしに大きくため息を吐く。  
 「いいから、いいから」  
 一時の気の迷いだ。誰かに聞いて欲しいなんて。 
 男性は僕をズルズルとブランコの方へ引きずって行く。  
 「そういや、名乗ってなかったよな。俺は山仲翔大だ。よろしくな」  
 2つ並んだブランコに腰掛ける、男2人。しかも冬の夜に。  
 「はあ……」  
 おいおい、急に自己紹介始まったぞ。怪しさ満点何だけどこの人。  
 「君は?なんて呼べばいい?」  
 「小林光……ですけど」  
 何で答えてしまうんだよ、僕。  
 「光、ね。りょーかい」  
 いきなり呼び捨てかよ。いや確かに山仲さんだっけ?の方が明らかに年上に見えるけどさ。  
 「んで?何を悩んでるんだ?」  
 「何でそんなこと……」  
 困惑する僕。お節介おっさんかよ。めんどくせーな。  
 「いいから、いいから。話してみ?」  
 仕方ない……。適当に話せばいっか。僕は山仲さんにボソボソと呟くように話し出した。  
 好きな人がいる。その人とは付き合っているのかよく分からない関係で、最近その人と距離を感じること。自分が本当はどう思われているのか……。  
 そんな事をつらつらと山仲さんに話す。次から次へと言葉が溢れてくる。  
 あれ?出会って3回目の人に何でこんなに喋ってんだろ、僕。恋愛相談なんて誰にもしたことないのに。  
 「うーん、なるほどな」  
 手を組んで頷いている山仲さん。本当に分かってんのかこの人。ポンと手を打つと、  
 「結論。俺にしとけ」  
 「……は?」  
 一瞬何を言っているのか分からなかった。いやいやいや、何言っちゃってんの。人の話聞いてた?どうなってその結論になったんだよ。  
 「ま、俺はいつでも待ってるよ。じゃあな」  
 ブランコから立ち上がり、ゆったりとした足取りで歩き出す山仲さん。  
 僕はブランコから立ち上がろうとしたが足がもつれて頭から後ろに倒れた。  
 「いってー!」  
 立ち上がる気力が起きない。そのまま仰向けになり冬の星空を眺める。  
 「訳わかんねぇ」  
 満点の星空にキラっと光の線が1つ落ちていった。