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きみのとなりにいる僕⑨



   ポーン。うー、あと……少し寝かせてくれえ……。ポーン。目覚ましは容赦なく僕をたたき起こす。えい。スマホの画面をタッチして目覚ましをオフにする。ふはは、どうだお前なんかこうしてしまえばもう僕を起こせないだろ。そのうるさい口を塞ぐんだな。ああ、布団から出たくない。ぬくぬくで暖かい……。ちょっとだけ……だから……。

 ✱

 「なんで目覚まし止めたんだよ僕!」  
 完全に寝過ごした。とりあえず水を胃に流し込み上着を引っつかみ玄関を飛び出した。  
 「鍵!」  
 鍵もかけずに行くところだった、あっぶねえ。  
 「よし」  
 鍵かけた!ガス止めた!電気は……付いてる?! 
 「いいや、時間ねえ!」  
 リビングの電気を消し忘れていたが消しに行ってる時間も惜しい。くそー、電気代があ。  
 後ろ髪引かれつつ僕は駅に向かい走り出した。  
 辺りは一面雪景色だ。転ばないよう気をつけながら先を急ぐ。  
 そういやここを通ると毎回山仲さんに声掛けられたな。今日は居ないだろうな……?  
 走りつつキョロキョロと周りを見渡してみたがそれらしい人影は見当たらなかった。  
 ホッとしたような拍子抜けしたような。いや、今はそんなことはどうでもいい。足を止めるな。走り続けろ。風になれ!
 自分を奮い立たせながら駅までを駆け抜ける。

 ✱

 間に合った……。駅のホームにはまだ電車が停まっていた。  
 「はああああ」  
 どさっと寄りかかるように席に座る。この時間はまだ座れるんだよな。  
 電車の中を見回すと人はまだまばらだ。ふう。ひと息ついて僕は向かい側のホームに目をやった。  
 「っ……」  
 息が止まるとはこの事か。一瞬本当に呼吸が出来なくなった。  
 彼が……貴一さんがいた。  
 「なんで……」  
 こんな時間にこの駅で会ったことは今まで無かった。どうしたんだろ?  
 1人かと思っていた彼の隣には女性がいた。あの時病院で話してた同僚の人か?  
 彼は、楽しそうに笑ってる。
 見たくない。これ以上は見たくない。僕の意に反して目は彼から離れようとしない。いやだ。  
 プシュー。  
 『4番線電車が発車します』  
 扉が閉まり電車は動き出した。彼と、彼の隣りにいる女性を残したまま。
 もういやだ。いやなんだ。こんな苦しいのはごめんだ。  
 僕はこの胸の締めつけから逃れたかった。  
 これ以上は無理なんだよ。  
 ガタンと電車が揺れた弾みに涙が頬を伝った。泣いてる?僕は……。  
 僕は決意した。
 ただ苦しみから解放されたくて。