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きみのとなりにいる僕⑥

   病院の匂いって独特だよな。僕は診察を受けながらそんな事をぼーっと考えていた。彼がすぐそばにいるのに彼の匂いがかき消される感じ。あんまり好きじゃない。  
 「うん、いつもどうりだね」  
 浮遊していた意識がそちらへ向く。  
 「これなら薬も特に変えなくていいね」  
 パソコンの電子カルテを見つめる貴一さん。  
 「小林さんお大事に」  
 ありがとうございました。軽く会釈をする。診察室から出たところでため息を吐く。彼と2人きりの時とは違う緊張感。
 心がぎゅっとなる。何でだろ。会計待ちのためにソファーへ腰を下ろす。結構混んでんな。総合病院だし、仕方ないか。  
 「長くなるかな」  
 ポツリと呟き、何となしに辺りを見回す。一瞬息が詰まる。視線が外せない。まるで縫い付けられるように僕はその一箇所を見つめる。  
 そこには若い女性の看護師と親しそうに話す彼が居た。  
 ただそれだけなのに、心臓が潰されるみたいに締め付けられる。苦しい。どうして。彼はただ話しているだけなのに。  やけに親しそうに見えるから?若い女性だから?自分の中では多分わかっている。
   自分と彼は友人という表現ではどこか遠く感じて、かと言って恋人と言う明確なものでは無いから。
 ポーン。会計待ちのパネルに番号が表示される。僕の番だ。会計を終えると僕はその場から逃げるように立ち去った。こんな気持ちになるのは自分だけなのかもしれない。彼は……。  
 どうかこの思いに彼が気付いていませんように。そんな僕のちっぽけな願いは届いただろうか。
 ぐちゃぐちゃの思考をかき消すように病院はザワザワと人混みでざわめいてる。