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【本】「自由への手紙」:シェアしよう

ときどき、本を読むのだが、本のジャンルは様々である。
学生の頃は「井坂幸太郎」や「東野圭吾」など有名小説が好きでよく読んだ。社会人になって貯蓄や経済の大枠が知れる「誰でもわかるお金の話」的な本にハマった。その頃から自己啓発本も読破することができ、今はパッと見て読みたいと思う本を手に取って買うように、あっちこっちにフラフラと好きを広げている。

今から、最近読んだ本の内容をみんなにも知ってほしくて記事を書く。


はじめに

本の題名は「自由への手紙」。この本は、現在の台湾で最年少デジタル大臣に就任されたオードリー・タンさんの、日本初のインタビュー集である。

オードリー・タンさんは子供のころから天才で(語彙力皆無:笑)、小学校は飛び級で卒業し、中学は自主退学、15歳でプログラマーとして仕事を始め、16歳で共同経営者となり、19歳で起業している。
24歳の時、女性への性別適合手術を受け、女性へと性転換したトランスジェンダーである。35歳の時にデジタル大臣に選ばれたのだが、行政院(内閣)に提出した性別は「無」と回答。

この本では、「格差」「ジェンダー」「デフォルト」「仕事」の4章に分けて、オードリー・タンさんが思う自由、本当の自由を語っている。


「あちら」「こちら」を超えた「すべて」

トランスジェンダーであるオードリー・タンさんは「男性」「女性」のどちらの性も経験している。そんな経験から、性別のみならず様々なすべての事柄において、「どちらか」「両方」ではなく「すべて」という表現を大切にされている。「すべて」とは、「誰一人取り残されることなく」である。

ひとたび両方を経験すれば、最大限に「インクルージョン(包括)」と言えるのではないでしょうか。どちらでもあるし、どちらの側にもなれる。どちらも含むのではなく、すべてを含む。どちらも尊重するのではなく、すべてが尊重される。(本書p81)
境目というものは、実はどこにも存在しないのです。(本書p85)

オードリー・タンさんは、コロナウイルス感染症の対策のために「マスクをすべての人に」と、すぐさまマスク在庫管理アプリを作り、毎日ライブストリーミングを行い、確実な情報を基にマスクが購入できる安心を与えていた。しかし、これはモバイルの操作や支払いに慣れていない人を置いてけぼりにしてしまう可能性があった。
そこで、次に市民と在住外国人の99.99%以上をカバーする国民健康保険証を使ったシステムの導入を実施した。コンビニの専用機械に国民健康保険証を差し込めば、マスクの購入予約ができるようにした。誰一人と取り残される人がいないように。

「良い」「悪い」の二者択一を勝手に、無意識に、自然に、判断してしまう私たちは、この「すべて」という考え方を持った方が、より豊かな発想で、より自由に生きていけるんじゃないだろうか。


「良い」「悪い」を超えた「すべて」

近年、AIの活躍が急増しており、オードリー・タンさんもこの題材の話をしている。「AIが変わってできること」や「今後消えていく仕事・生き残る仕事」などといった話題の記事をチラチラ見かける。
AIは、はたして脅威となるのか。生き残るとは、何か。オードリー・タンさんは冷静に、変わることなく「すべて」の見方を持って、教えてくれた。

(AIは)労働力や労働の質が本題ではありません。すべては、私たちがどこに価値を置くかによるという議論だと思います。もしも、自主性や相互関係、共有の価値観などを大切にするのであれば、AIは単に補助的知能です。(本書p144)
「この仕事のこの技術こそ、自分である」。それがプログラミングであれ、文章を書くことであれ、データ分析をすることであれ、何らかのスキルセットを重視している場合、ロボットは仕事を奪い去る敵となり、不安が生まれます。(本書p145)

オードリー・タンさんは、この題材を具体的な「山登り」に例えている。
山登りは辛く、寒く、しんどい作業であるが、山頂に到達した時の喜びや達成感は、実際に山を登った人にしか分からない。ロボットに山登りをさせて、朝日が昇る瞬間のすてきな写真を撮らせ最速で戻ってこさせることは、きっとしないだろう。
しかし、「電波が悪く、市民が困っている。山頂にある通信用タワーの確認が、至急必要だ」となれば、人力で山登りをすることなくドローンを飛ばすはず。

非常に分かりやすい説明である。AIに支配されて恐れるべきことは作業や仕事ではない。人の心の隙であるように思った。


「ゆりかご」「墓場」を超えた「すべて」

AIやデジタル化社会について、さらに興味深いことをオードリー・タンさんは語っていた。

人が100歳まで生きるとして、90歳になっても現役世代のように働くことは難しいでしょう。しかし、「支援のAI」が助けてくれれば状況は変わります。年齢を重ねてでもできることが増えて、充実していくはずです。
また、自分の経験や蓄積を提供するという、知恵の労働(wisdom work)なら何歳になってもできます。(本書p162)

日本では団塊の世代の退職や高齢者の増加により、定年についても問題視されている。厚生労働省の情報では、一律定年制を定めている企業の割合は97.6%で、その定年年齢を「60歳」と定めている企業は91.1%、「65歳以上」は6.2%と示している。

デジタル機器に慣れない人たち、肉体労働が難しい人たちを、置いてけぼりにしてはならない。時代・世の中は常に変わっていて、その波に乗れる人は波に乗れず困っている人に手を差し伸べてもいいんじゃないかと思う。


「すべて」の人に「自由」をシェアする

自由に、性別や年齢、器用さや社会的地位などの制限はない。

オードリー・タンさんは一貫して「すべて」を含む自由を心に、行動に持っている人だと感じた。

自分が自由になるだけでなく、みんながみんなを自由にするための行動を起こせたら、すごいことです。自由をお互いにシェアしよう。(本書p3)

これは本書の冒頭に投げかけられた言葉である。

「お互いにシェアしよう」なんて、今どきのキラキラポップな言葉であるが、読み終えた今ではその言葉の重みと希望が少しは分かる。
少しでも私の思考がアップデートできた気がする。


インタビュー集であり、堅苦しくなくて読みやすい一冊なので、ぜひ読んでほしい。心が広がるような気持ちになれるよ。

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