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#206 ”魔法の料理”

”叱られた後にある 晩御飯の不思議.あれは魔法だろうか 目の前がにじむ”
このフレーズを今から11年前にNHK「みんなのうた」で初めて聴いたとき,胸にグサッと刺さりました.まさか,BUMP OF CHICKENの歌声をNHKテレビから聴くとは思っていませんでした.


”僕”から”僕”へ

 普通,時間は過去→現在→未来と進んでいきます.この唄の中では,未来の”僕”が,過去の”僕”に語りかける口調で詩が続きます.

君の願いはちゃんと叶うよ楽しみにしておくといい
これから出会う宝物は 宝物のままで古びていく

なんとなく,大人が自分の子どもに語りかける口調に似ています.自信をもって自身の全力を出して,夢を諦めるなと語っているように聞こえます.作詞をした藤原さんは,今の自分”僕”がこの曲を聴いている子どもたちに語りかけるのを,過去の”僕”に語りかける場面設定にすることで表現したのだと思えます.「私は,あなたに伝えます」ではストレート過ぎるので,「今の私は,過去の私に伝えます」という,時間の流れに逆行する形で印象付けようと設計されている気がします.

”無くすものが宝物”

 宝物は,今持っているモノ? あるいは,無くしたモノ? 「宝物」は手にもてるモノ? 記憶のように頭の中にあるモノ? 気持ちのように心の中にあるモノ?

君の願いはちゃんと叶うよ 怖くてもよく見て欲しい
これから無くす宝物が くれたものが今宝物

楽しみと覚悟

 曲の終盤のコーラスが繰り返します.

(楽しみにして でも覚悟して)
(楽しみにして 楽しみにして)

 手放しの楽しみは保証していません.自分の努力が前提で,宝物が手に入ると予告しています.やっぱり,バンプの藤原さんは,詩人だなーと思います.

(写真: お気に入りの一枚.ルネ・ラリックのガラス工芸作品である車のボンネットを飾るカーマスコットの撮影写真@東京都庭園美術館. ”魔法使い” というと,この作品が頭に浮かびます.他にもいろいろお気に入り作品があり,いつかまた訪れてみたい美術館です.去年三重の美術館でも企画展があったのだけれど,新型コロナの自粛期間中で来館を断念しました.)