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【ライターの本棚】うん、頑張れるって思わせてくれる本 ーー『聞く力』 阿川佐和子

私は図太い性格をして見えるせいか、インタビュー取材の仕事の前夜に不安な気持ちに押し潰されそうになっているなんて、誰も信じてくれない。

でも取材前夜、布団に入ると、考えてもどうしようもない不安が頭の中を駆け巡る。

取材相手とスムーズに話ができるかな?
聞き忘れないで全部聞けるかな?
時間通り終われるかな?
取材相手めちゃくちゃ怖そうだけど、大丈夫かな。
あ、それより明日起きれるかなぁ。

取材の不安からスタートし、最後は寝坊の心配までし始める。これがもはやお決まりのコース。

でも普段からあまり動じないと思われることが多い私(本当はそんなことないのだけれど)。こんな気弱な姿を信じてもらえなくても仕方がないと思いつつ、不安な心を誰ともシェアできない心細さと常に戦っていた。

そんな時、出会ったのがこの本だ。

『聞く力 心をひらく35のヒント』 阿川佐和子

思い悩む中で出会った阿川佐和子さんという存在

その頃、取材やインタビューをもっとスムーズにできないものかと思い悩んで、様々なインタビュー記事を読んでいた。

いいインタビューを読むといつも思うのはこんなことばかり。

  • このタイミングでこういう具体的な質問ができたり、話をどんどん深掘りできるのすごいなぁ。

  • 私だったらこういう話の流れでスムーズに相槌できるのかなぁ。

  • リード文いいなぁ。私からは絶対出てこない発想だ。


頭の中ではマネしたい部分はたくさんあるのに、自分にそれができるとは思えない。どうやったら、いつになったらこんなインタビューができるんだろうと、ぼんやり思っていた。

そんなこと言うとインタビュアー失格だし、まだまだ未熟でしかない。でもいくら色々読んでも頭でっかちになるばかりで、もっと取材の数をこなさなきゃ成長できない。そんなことは重々わかってる。でも私はとにかく今すぐに、次々に頭に浮かんでくる不安を解消したいんだ。

阿川佐和子さんも、みんな同じなんだ

そんな不安を抱えながら、ネットで参考になる本を探していたところ、おすすめしてる人が多く、高レビューだった阿川佐和子さんの「聞く力 心をひらく35のヒント」という本を見つけた。

阿川佐和子さんといえば、ビートたけしのTVタックルのイメージがとても強い。ビートたけしを始めとするキャラの濃い出演者たちを相手に、常に凛とした姿で時にチャーミングに対応する姿が思い浮かぶ。サワコの朝での毎回違うゲストを迎えたトークでは、相手の話を邪魔することなく、それでもしっかりつっこんだり相槌や質問も織り込みながら、さらっと話を引き出す。いつもかっこいい女性だなぁと思いながらTVで拝見していた。

そんな阿川さんの本だから、絶対読んでみたい!そう思ってすぐに購入した。

読み始めてすぐにびっくりしたこと。
それは本編の最初のくだり。

私はずっと、インタビューが苦手でした。正直なところ、今でも決して得意だとは思っていません。

『聞く力 心をひらく35のヒント』 阿川佐和子

え、あの阿川佐和子さんが、インタビューが苦手!?今でも得意ではない!?

こんなにたくさんの有名人をインタビューしたり、テレビでもあれだけトークしている方が苦手なんて本当?!と思いつつ、読み進めると、阿川さんが持つ感覚は、私のような普通でまだ経験の浅い新人ライターにも通ずるところがある。

そして本全体を通して、そんな私でも大丈夫って言われてるような気がした。

この本には、タイトルの通り阿川さんの経験を通じて35のヒントが綴られている。うまくいった経験も失敗の経験も、大切な経験として隠すことなく書いてある。何かそのまま実行すればいいようなアドバイスではなく、文字通り「ヒント」となるエピソードばかりだ。

人として、他人とどう心を通わせていくか。という大きなテーマのヒントこそがこの本全体に散りばめられているように思う。

特に一番最後の「遠藤周作さんに学んだことーーあとがきにそえて」に書かれていた遠藤周作さんの一言、そしてそのあと書かれている阿川さんがなりたい聞き手の姿。ここにこの本の全てが集約されているように思えた。その内容はぜひ本書を読んで欲しいので、ここでは伏せておく。

それまでの私は、なんとなくインタビューはこうするべき、のような指南の言葉を探していた気がする。それを全て実行するかどうかは別として、指南書にすがって、まずはそのやり方を自分に落とし込んでみたい、と。

もちろん大切なテクニックや絶対にやるべきことは存在するだろうけど、この本に書かれていることはもっともっと大切な、心を開いてもらうための、聞き手の心づもりなんじゃないかと思う。予定調和ではない会話から生まれてくる言葉の中に、取材相手すら知らない取材相手自身の深層にある思いが隠れている。
それを教えてくれたのが本書だ。

続編も読んで欲しい

ちなみにこの本は、2012年に初版が発行されている。10年前か。今阿川さんっておいくつなんだろう?と思って調べたら・・・なんと今年で69歳!そんな風には見えないほどお若く、とにかく生き生きとされている。ますます憧れの女性になった。

この本の続編『叱られる力 聞く力 2』もあるそうなので、こちらもぜひ読んで欲しい。


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