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「母校から母港へ」地域の創造性を引きだし新たな社会実現に向かう i-GARAGE HUB発起人に聞く

福井県の地域企業と学生、自治体、産業支援機関の職員が協働し、デザイン思考による実践的な地域イノベーションを共創するi-GARAGE HUB。

発起人となった福井大学 産学官連携本部長の米沢晋さん、客員教員として本プロジェクトを支える勝木一雄さんに、プロジェクトの狙いや地域における大学の役割をお聞きしました。


既存の思考を脱ぎ捨て、文化を創出する地域産業づくりを目指す

ーー まず、i-GARAGE HUBを立ち上げたきっかけを教えてください。

米沢:
産学官連携本部長になる前、私は地域の産業労働の枠組みづくりなどに取り組んでいたんですが、デザイン思考による実践的な地域イノベーション創出の必要性を感じていました。

当時、勝木先生は福井県工業技術センター所長として地域産業や行政の支援もされていたので私と協業することもあり、似たようなことを考えているなと思っていたんです。

勝木:
いま地域産業が発展するためには、もともとそこにある技術だけでは足りなくなっています。企業にとっては異業種や学生、外の世界との交流が大切で、そのためには地域の大学の核である福井大学と深くつながる必要性がある。

米沢:
勝木先生は行政の中で産業技術をがっつりやられていたけれど、「技術だけで自分たちの天井(=限界)を語るのは違うよね」とおっしゃられていましたね。

地方創生には「文化」が必要です。文化とは生活様式であり、過去・現在だけでなく未来の生活様式というテーマで天井を見上げると、果てしなく高くなる。「宇宙に天井はあるのか?」みたいな話です(笑)。
そういう観点で企業や地域産業を捉え直してみると、新しい可能性が生まれます。

文化を生み出すのは「創造性」を通じた喜び

創造性の大切さについて語る勝木一雄さん

勝木:
文化人類学のパイオニアである梅棹忠夫さんの言葉に「文化は三術(学術・藝術・技術)」というものがあります。そのすべてに共通するものは創造性。

新しいことに向き合う喜びは、生きる価値や喜びにつながります。地域で何かやっていくときにも、「お金が増えた」「ものが売れた」ということ以上に重要なことです。

伝統工芸も、新しい手法やデザインなど求めていくわけで、地域産業も同じ。新しい考えやイノベーションにふれられる場があるといいですよね。

米沢:
大学を活用しようと勝木先生はおっしゃっていて、私も「オープンイノベーションの中で、学生にも、ほかの人にも喜びが感じられるものが作れないか?」と考えていました。

だからi-GARAGE HUBは、産学官が連携して地域の社会課題を可視化し、創造性を発揮しながら解決法を探索したり、それを技術で支えていくというコンセプトで運営しています。

私たちは「教員」をやめなければいけない

i-GARAGE HUBの運営について語り合う勝木一雄さん(左)、米沢晋さん(右)

ーー i-GARAGE HUBの運営で心がけていることはありますか?

勝木:
科学技術の分野で長くやってきていると、どうしても知識を豊富に持ってしまっています。
学生との対話でハッとすることもあるし、すぐに「こうすればできるよね」と思うこともあるわけですけど、どのくらい表に出すのかが難しいところです。

米沢:
私たちは「教員」をやめなければいけない。話の流れとして参加者が最優先なので、授業的なことをしていてはイノベーションが生まれません。

勝木:
そういう意味では、自分たちも初心者であると痛切に感じますね。思いもしない技術の使い方に出会うことがあります。たとえば、一所懸命口出ししていたら、サウナハットにはたどり着かなかったかも。

企業に長くいると問題意識があっても視野が広がっていきにくい局面がある。i-GARAGE HUBを突破口として使っていただけたらと思います。

多様性が生み出すビジョン探索と社会実現、その先へ

ーー i-GARAGE HUBでは「イノベーションを生む対話」を大切にされていますが、イノベーションが生まれる瞬間はどんなときですか?

米沢:
プロジェクトによってタイミングは違うのですが、i-GARAGE HUBで対話を進めるうちに、環境保全や地域の教育など、社会貢献の話が出てくることが多いですね。

単に儲かる手法やアイデアを出すということではなくて、自分たちは何を考え、何をしようとしているのか、というところに辿り着く。多様なメンバーが集まるほど、どんな社会を実現したいかという意識が高まる傾向があります。

そうしたビジョンを行ったり来たりしているうちに、課題や新しい発想が見えてきます。技術を通じて社会を探索し、新たなアプローチが生まれていきます。

i-GARAGE HUBの対話が生み出す価値について語る米沢晋さん

ーー 北陸の方はシャイだと聞きますが、イノベーション対話の意義はなんでしょう?

勝木:
北陸だからというよりも、理系やものづくりをしている人たちが比較的シャイなのかなと思います。

そういう人たちは、これまでは人を使うのが上手な人の言うとおりにやっていればビジネスも上手くいっていたかもしれません。でもこれからは、ものを作る側が自分たちの道を見つけていくことが必要です。

米沢:
シャイなのは福井大学の学生のキャラでもありますね。製造生産技術の核になっている、縁の下の力持ちが多い。

勝木:
福井県Webサイトにも「『実は福井』の技」というページがありますが、県内には優れたものづくりに携わるひとが多いですよね。

ーー 世界や国内で大きなシェアを持つ製品や、オンリーワンの技術も多い地域です。

米沢:
時代がそっとしておけない技術を持つ人たちが、自分たちで価値を発信していける時代を作りたいですね。i-GARAGE HUBのイノベーション対話は、そういうきっかけづくりになると考えています。

「母校から母港へ」地域産業を支える大学のこれから

これからの産業と大学の関わり方について語る勝木一雄さん

勝木:
大学は産業界が関わることで研究を世の中に活かせています。でも、極端な話をすると誰かが大学に世間話をしに来て、ハッと気づきを得てビジネスに役立ててくれたら、それはそれで良いと思ってます。

i-GARAGE HUBでも実践していますが、科学技術を根本におきながらも、創造性につながる場として活用いただけたらなと。

米沢:
「母校から母港へ」というコンセプトを提唱しています。
社会という海に出航したあと、疲れたときに立ち寄って、また修理して出発してもいい。インテリジェンスを補給する場所ですよね。

勝木:
逆に、大学は一人ひとりが専門家として何かを発揮しなければということにとらわれていますが、総合的なインテリジェンスをもっと活かすべきだと思います。公共的な場であるのだから、大学がやらなきゃ誰がやるんだって。

米沢:
生きた図書館みたいなものですよね。

勝木:
産総研のみなさんも、そのように考えて共創してくださっているのだと思います。専門的な手法を研究・実践されているうえで、大学と響きあいながら一緒にやってくださっているので、我々としては非常にありがたいです。

ーー 最後に、i-GARAGE HUBに関心のある読者のみなさんに一言お願いします

米沢:
「普段の対話」「不断の対話」なしでは生きていけないと思うから、いっぱい話をさせてください。

勝木:
学生、産総研、工業技術センター、産業支援センターなどの技術やデザインに通じた機関の専門家が主体性をもって加わり、大学を活用しながら、それぞれ発見や創造の喜びを感じながら共創していく場を模索しています。ご興味のある方は、ぜひご連絡ください。

(インタビュアー:山崎 瑠美)


●産総研デザインスクール 小島一浩校長から読者へのメッセージ

福井大学の学生達と松文産業が生み出したサウナハットは、彼らの意志と情熱でした。同じように、意志と情熱を持つチームを生み出したのは、米沢さん、勝木さんの「地方創生には文化が必要」という思いでした。

i-GARAGE HUBという場を創出する際のデザイン・クエスチョン(How Might We ?)が「どうすれば、オープンイノベーションの中で、学生と関係者が喜びを感じられるか?」だったということが分かります。どのような時に、人は喜びを感じるのでしょうか?

デザインの階段(The Design Ladder)という概念があります。
起源は、産総研デザインスクールでも毎年訪問するデンマークデザインセンターです(参照)。

i-GARAGE HUBでは、共にモノ・コトを創り出すプロセスにおいて、お互いの志を発見・交換し合い、共に創り出す喜びがプロセスに埋め込まれています。つまり、プロセスとしてのデザインに対応します。さらに、地域として文化を創るという戦略としてのデザインの一端を見ることができます。

このように、デザインを意識せずともデザインを行っていることがあります。さらに関係者全員がデザインの言語で対話しあえることで、よりやりたいこと=志をお互いに明確に相手に伝える、共に行動することが可能となります。

みなさんも、既に行っている企業・組織の活動をデザインの文脈で再解釈したらどのような未来が見えるのか? 探索してみてはいかがでしょうか。


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