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デザインの活用度合いを表す「デザインラダー」を再解釈する-プロセスとしてのデザインが日の目を見る時

2001年にデンマークデザインセンターから「デザインラダー」という考え方が提唱されてから20年。
企業によるデザインの活用度合いを4つのステップで現した考え方が、「デザインラダー」です。

出典:https://issuu.com/dansk_design_center/docs/design-ladder_en

デザインラダーの元になった仮説でもある「デザインの活用度合いと、企業の利益には正の相関関係がある」ことは、少しずつ明らかにされてきました。

出典:「デザイン経営」宣言


British Design Councilは、デザインに投資すると、その4倍の利益を得られると発表した。

製品デザインへの投資が1%増えるごとに、売り上げと利益は平均して3-4%増加するという調査結果

デザイン的アプローチを経営の戦略に積極的に取り入れている状況企業の株価の伸び率が、S&P 500全体平均と比べ10年間で228%高くなっている

他にもいくつかの記事や調査で結果が示されています。

また、実際にデザイン経営を標榜する企業も出てきており、20年前とは大きく状況は変わっているのではないでしょうか。

「デザイン」というワードも、「デザイン思考」「UX」などのバズワードとともに、どんどん市民権を得ているように感じます (デザイナー目線での、この状況への意見は様々だと思いますが)。

このポストでは、20年前の「The Design Ladder: Four steps of design use」を再解釈しながら、一人の、デザイン産業でスタートアップを経営する人間として、時代への考察、自社の進むべき方向性を考えてみたいと思います。

※ あくまで個人の考察です。ご指摘やディスカッションはいつでも大歓迎です。気になることがあればぜひメッセージ (Twitter)ください(関心のあるテーマなので、ラフに話したいなども、個人的にはすごく嬉しいです!)。

デザインラダーをもう一度解釈してみる

改めて、デザインラダーの各ステップについて見ていきます。

出典:https://issuu.com/dansk_design_center/docs/design-ladder_en

各ステップは、以下のように説明されています。

STEP 1 NON-DESIGN (デザインが活用されてない状態)

デザインは、製品開発などの目に見えない部分です。 訓練を受けたデザイナーが担当していないこともあります。解決策は、良い機能や美的感覚に関する関係者のアイデアによって推進される。このプロセスでは、ユーザーの視点はほとんど、あるいは全く役割を果たしません。

Design is an invisible part of, e.g., product development, and the task is not handled by trained designers. The solution is driven by the involved participants’ ideas about good function and aesthetic. The users' perspective plays little or no role in the process.

STEP 2 DESIGN AS FORM-GIVING (スタイリングとしてのデザインの活用)

デザインは、商品開発やグラフィックデザインなど、最終的に形にする段階としてのみ捉えられています。多くのデザイナーは、このプロセスを「スタイリング」と呼んでいる。 この作業はプロのデザイナーが行うこともありますが、通常は他の専門的なバックグラウンドを持つ人々が行います。

Design is viewed exclusively as the final form-giving stage, whether in relation to product development or graphic design. Many designers use the term ‘styling’ about this process.The task may be carried out by professional designers but is typically handled by people with other professional backgrounds.

STEP 3 DESIGN AS PROCESS (プロセスとしてのデザインの活用)

デザインは結果ではなく、開発プロセスの初期段階から組み込まれたアプローチである。解決策は、問題とユーザーによって推進され、例えば、プロセス技術者、材料技術者、マーケティングの専門家、管理スタッフなど、さまざまなスキルと能力の関与を必要とします。

Design is not a result but an approach that is integrated at an early stage in the development process. The solution is driven by the problem and the users and requires the involvement of a wide variety of skills and capacities, for example process technicians, materials technicians, marketing experts and administrative staff.

STEP 4 DESIGN AS STRATEGY (戦略としてのデザインの活用)

デザイナーは、企業のオーナーや経営陣と協力して、ビジネスコンセプトを全面的または部分的に再考します。 ここでは、企業のビジネスビジョンや、望ましい事業領域、バリューチェーンにおける将来の役割との関連で、デザインプロセスを考えることが重要です。

The designer works with the company’s owners/management to rethink the business concept completely or in part.Here, the key focus is on the design process in relation to the company’s business visions and its desired business areas and future role in the value chain.

そして、デンマークデザインセンターによると、2016年時点でデンマークの企業は以下のように分布していたようです。

出典:https://issuu.com/dansk_design_center/docs/design_ladder_2016_eng

ステップ1の次に、ステープ3がボリュームゾーンなのは、日本にいる私としては、少し直感と反する部分ですが、デンマークではそうなのかも。

日本では「プロセスとしてのデザイン」が次の3年でボリュームゾーンになるのではないか

翻って、「日本企業はどんな分布になるのか?」を考えてみます。
バッチリなデータや情報が見つからなかったので、あくまで推測の域を出ないのですが、いわゆるIT企業 だと以下のような分布のイメージです。

  • ステップ1 デザインが活用されてない企業:35%

  • ステップ2 スタイリングとしてデザインを活用している企業:50%

  • ステップ3 プロセスとしてデザインを活用している企業:10%

  • ステップ4 戦略としてデザインを活用している企業:5%

以下、根拠として参考にした情報です。

※ IT企業を、情報通信業の企業と位置付けて考えています。2020年時点では約6000社が日本では、IT企業として存在するようです。

※ 判断材料の一つとして、デザイナー採用大手のひとつ、vivivitさんに登録されている企業数が2700社であることも参考にしました。

デザイナー採用は、相当数のIT企業が行なっているものの、サービス開発プロセス終盤で「スタイリング」としてデザインが使われている場面も少なくないのが肌感なので、ステップ2をボリュームゾーンと捉えてみました。

ステップ3以降の企業は、自社に内製化されたデザインチームを持っている印象で、まだまだ日本にはその数は少ないだろうと読んでステップ3, 4合わせてIT企業の15%程度と予測しています。

IT企業に限らず、日本の企業 (2016年時点で188万法人) で見ると、あまり直視したくない現実ですが、ステップ1がボリュームゾーンになる気がします。

そして今後は、IT企業を中心にステップ3に該当する企業が増えてくることはGoodpatchさんのリサーチから見ても間違いなさそうです。

デザインチームが発足されたり、経営層にデザイン責任者ができたりするニュースを見るたびに、ますます企業の内部にデザインが入り込んでいくことを実感しています。

Cocodaでも素晴らしいデザインチームを取り上げさせていただいています。

現状と業界の盛り上がり方を鑑みて、おおよそ3年以内でステップ3の「プロセスとしてのデザイン」を活用するIT企業がボリュームゾーンになっていくだろうというのが個人的な見解です。

創業したalmaという会社では、この流れを早めていくこと、デザインがもっとひらかれたものになることに多くの力を割いています。

そして一方で、ステップ3の「プロセスとしてのデザイン」は、いくつかポイントや新たに出てくる課題があるとも感じています。

プロセスとしてのデザイン ≠ デザインプロセス

「プロセスとしてのデザイン」は、発散と収束を繰り返すダブルダイヤモンドや、他サービスをリサーチしてアプリなどの画面のビジュアルをつくっていく「デザインのプロセス」とは違います。

デザインラダーを再度見てみると…

STEP 3 DESIGN AS PROCESS (プロセスとしてのデザインの活用)

デザインは結果ではなく、開発プロセスの初期段階から組み込まれたアプローチである。解決策は、問題とユーザーによって推進され、例えば、プロセス技術者、材料技術者、マーケティングの専門家、管理スタッフなど、さまざまなスキルと能力の関与を必要とします。

Design is not a result but an approach that is integrated at an early stage in the development process. The solution is driven by the problem and the users and requires the involvement of a wide variety of skills and capacities, for example process technicians, materials technicians, marketing experts and administrative staff.

あくまで、"an approach that is integrated at an early stage in the development process."(サービス開発プロセスの初期から組み込まれたアプローチ) であり、"requires the involvement of a wide variety of skills and capacities" (さまざまなスキルと能力の関与を必要とする) ものなのです。

つまり、「プロセスとしてのデザイン」は、

  1. サービス開発の初期からデザイン的なアプローチが入っており

  2. 職業としての「デザイナー」だけじゃない者も関与する

ことがポイントだと考えられます。

サービス開発の初期から、「デザイン」的なアプローチを入れるには、組織構造や、ワークフロー、果てはカルチャーまで、多くの変化が企業にも、働く個人にも求められます。

表に出ないことも多く、評価しづらい/されづらいことも多い

そして、プロセスとしてのデザインでは、表面的に見えないことも多くあります。

例えば、制作物の依頼フローづくりなどは、最終成果物(バナーなど)が見えにくいものですが、組織全体の生産性や、働きやすさ、ブランドなど多くの側面に影響します。

そして、会社ごと、業界ごとによって、アプローチが変わってくることも。

重要であるにもかかわらず、最終成果物が見えにくいがゆえに、評価されづらい/しづらいことが多々あると、個人的に感じています。

プロセスとしてのデザインを活用する企業が増えるためには、このような「見えにくいが価値ある活動」も素晴らしい制作物やプロダクトと同様に、きちんと表に出て評価されることが重要と考えてCocodaを運営しています。

「プロセスとしてのデザイン」を推し進めるために

上記をまとめていくと「プロセスとしてのデザイン」の流れは、以下のようにまとめられそうです。

  1. 日本は「スタイリングとしてのデザイン」から「プロセスとしてのデザイン」に移行している途上で、

  2. サービス開発の初期段階からデザイン的なアプローチが入ることがスタンダードになってきて、

  3. インハウスデザイナーは増加(デザインチームの内製化)し、

  4. デザイナー職はもちろん、デザイナー以外も「デザイン」に関与できることが求められるように、

  5. 一方で、「プロセスとしてのデザイン」を企業全体で実践するには、組織も個人も変化を求められ

  6. 業界全体としても、「デザイン」の見えづらい部分の可視化/評価の必要性が出てきている

almaという会社は、これらの流れをより早めたり、起きる課題を解き、「すべての人にとって、デザインがひらかれたものに」(DESIGN for ALL)を実現するために創業し、経営をしています。

  • 見えづらい部分も含めたデザインチームの活動の可視化をCocoda

  • デザイナーも、デザイナー職以外もユーザー視点でサービス開発に関わるためのCocoda Board

  • 他にもデザイナー間での生産性に関わる新しいプロダクトも絶賛開発中

などなど、さまざまなアプローチを実験しています。

勢いでまとめたものなので、事業の進捗や業界の動きに合わせて適宜アップデートしていこうと思います。

一緒にデザイン産業をつくっていきたい / CocodaやCocoda Board面白そうだぞという方がいれば、ぜひTwitter / Facebookにて気軽にメッセージください。

面白そうな会社やんと思って下さった方は、ぜひぜひお話しましょう(ちなみに、現在社員は6名で、変わったメンバーが多いです。熱狂を生むプロダクトづくりを一緒にしたい方、偏愛の強い方は、気が合う仲間に出会えそうです👀)。


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